
(阿部頼義さん)
「難民」というワードは、日本ではあまり馴染みがないかもしれません。
「難民」とは、紛争や人権侵害などを理由に、やむを得ず母国を追われ、逃げざるを得ない人々です。
日本は難民条約(「難民の地位に関する1951年の条約」、「難民の地位に関する1967年の議定書」)を批准していますが、日本国内における難民認定率は、他の難民条約批准国と比べると低い傾向にあります。
そうした中、日本国内における難民申請者の内、難民として認められない人々は仮放免(または監理措置)として生活しています。
彼らには公的セイフティネットがほとんどなく、就労も基本的に認められません。
健康保険にも加入できないため、病気や怪我に罹った際に、自費で治療を受けざるを得ないのが現状です。
そのため、多くの仮放免者や難民申請中の人々は医療にアクセスすることが難しく、病状が悪化してから、病院に駆け込むという医療アクセスの問題が生じています。
「難民医療支援会」は、そうした難民申請者や仮放免者が医療にアクセスできるようにサポートすることを目的に2021年2月ボランティア団体として設立されました。
代表の阿部頼義さんが団体を設立したきっかけは、懇意にしていたカメルーン出身の難民申請者レリンディス・マイイケさんが、がんで亡くなってしまったことがきっかけです。
2024年11月には、「NPO法人 難民医療支援会プレシオン」の設立総会が行われ、NPO法人化という新たな段階に進み始めた「難民医療支援会」。
阿部さんは神奈川県海老名市の教会「グレース ガーデン チャーチ」で牧師をされている方でもあります。
今回は、そんな阿部さんにインタビューさせていただき、仮放免者、難民申請者への支援内容や彼らの生活、医療の現状等についてお聞きしました。
–−今日はよろしくお願いします!最初に団体の活動について教えてください。
私たちは、当事者の代わりに、
①行政サービスに問い合わせること
②「無料低額診療制度」を実施する病院を探すこと
③医療費を負担すること
④寄付を集めること
を軸に活動しています。
「無料低額診療制度」とは、経済的な理由によって必要な医療を受ける機会が制限されないよう、無料または低額な料金で診療を受けられる制度のことです。社会福祉法で規定されています。
言語や文化の壁があると、自分では病院を探したりSOSも出せず、我慢するケースがあります。
私たちは、そのような当事者の代わりに、行政に問い合わせたり、「無料低額診療」の病院を探し、同行します。
それでも診察代や薬代に費用がかかるときは、いただいた寄付から支払い、医療を受けられる環境を整えていきます。
仮放免者の方でも受けられる行政サービスは色々とありますが、当社者たちにもあまり知られていません。
私たちは当事者と行政サービスの間のギャップを埋める中間支援としての役割を果たすことを心がけています。
こうした活動を実働スタッフと事務局スタッフ合わせて約10人で行っているのが現状です。

(写真;活動の様子、提供:難民医療支援会)
––NPO法人化にあたって名付けられた「プレシオン」の由来について、お聞かせいただけますか?
2021年に結成後、私たちは「難民医療支援会」として活動してきましたが、より親しみをもって、皆さんに認識してもらえるように名前をつけることにしました。
メンバーのほとんどはクリスチャンなのですが、聖書には、「隣人愛」という大切な教えがあります。
新約聖書が書かれているギリシャ語で、「プレシオン」には「隣人」という意味があり、ここから団体名を付けることにしました。
弱っている人に寄り添い、行動できる「隣人」となれる人が少しでも増えれば良いなという思いを込めました。
––阿部さんは支援を通じて、たくさんの仮放免者や難民申請者とお会いしてきたと思います。
私たちは、これまでに約40人の仮放免者や難民申請者の方の医療支援を行ってきました。
彼らはお金もなく働けないため、誰かに頼らないと生きていけません。
特に今問題になっているのが、医療もそうですが、住む場所がないということです。
そのため、ホームレス化してしまい、公園で親子で生活しているといったケースも発生しています。
有志の方が自宅を仮住まいとして提供しているケースもありますが、マンションの一室に7〜8人が住んでいることもあります。
––医療もそうですが、身近なことが大きな問題になっているのですね。みなさん、どのような医療の悩みを抱えてらっしゃるんでしょうか?
これまで、私たちが支援してきた方々が抱える医療の悩みは、風邪や虫歯、骨折といった身近なものから、慢性的な高血圧、その他持病まで様々です。
精神的な病を抱えていらっしゃる方も少なくありません。
母国や日本の入管施設での体験がトラウマになっている方も少なくないのが現状です。
––阿部さんたちの団体では、SOSを求める方の声をどのようにキャッチしてらっしゃるのでしょうか?
現在の私たちの規模では、間口を広げて、困っている方に、誰でも気軽に電話相談してもらうような体制にすることは困難です。
そのため、今のところ、他の難民支援団体や個人の方から、お声がけいただいて、口コミで活動を広げています。
また、支援している方から、「知り合いに困っている人がいるから、助けてあげてほしい」といった形で、支援の輪が広がることもあります。
––支援の中で苦労されていることなどはありますか?
時間感覚の違いなど、文化の違いには悩まされる部分がありますね。
また、支援していると支援される側も慣れてきます。いわゆる「支援慣れ」ですね。
そうなると依存関係になる可能性もあることから、「どこまで支援するのか」は、常に考えながら活動しています。
それと、一番大きな問題は現実的な話ですが、「お金」ですね。
スタッフはボランティアでも、支援活動には様々な場面で資金が必要になってくることから、いつも頭を悩ませています。
「無料低額診療制度」のもと、検査や診療費は無料なのですが、薬代は無料にならない場合もあるので。

(写真:活動の様子、提供:難民医療支援会)
––お金ももちろんですが、たしかに文化の違いも難しそうです。
医療アクセスを考える上で、文化の違いは重要な要素の一つです。
日本人なら病院に行くような症状であっても、発展途上国の人々にとっては我慢の範疇で、病気として認識していないケースもあります。
例えば、虫歯に関して、発展途上国の人々の中には、抜くこと=治療という認識の方もいます。
そのため、そういった人たちは、歯が痛かったとしても、我慢し続けてしまいます。
言語やお金の問題も相まって、彼ら自身の意思で病院に行くことへのハードルの高さの一因にもなっています。
––阿部さんたちが支援していらっしゃる方々は、収入がない方がほとんどだと思います。彼らはどのように生活されているんでしょうか?
同国人のコミュニティによって生活を支えられているケースが多いですね。
これは本当にすごいと思います。
仮放免者の方に対して、同国人が余裕のあるときにカンパをくれたり、家賃を負担してくれるなどといった例もあります。
特にアフリカ系コミュニティの方たちは、こうした助け合いの精神が強いと感じますね。
とはいえ、様々な事情で、同国人のコミュニティに関われない方もいらっしゃいます。
個別具体的なケースが様々あって、人の数だけエピソードがありますね。
––印象に残っているエピソードはありますか?
以前、妊婦さんを支援した時は本当に大変でした。
その妊婦さんは健診を受けていた産院で、「無保険の人はここでは産ませられない」と断られてしまったんです。
行政からも「今のままでは何もできない」と言われてしまって。
刻一刻と赤ちゃんがお腹の中で育っていく中、出産できる場所を探さなければならなかったので、時間との戦いでした。
最終的には、臨月に入ったくらいの時期に、とある大学病院に受け入れてもらうことができて、無事出産となりました。
––最後に、阿部さんたちの今後のビジョンについて教えていただければと思います。
私個人としては、この「プレシオン」を大きくしようとか、立派な団体にしようといったことは全く考えていません。
一般の方でも一歩踏み出すことで、「こういう支援ができるんだ」ということを示せるモデルケースになりたいと考えています。
以前、世界各国で行われた、とある大規模アンケートで、「難民のために何か支援をしたことがあるか」という項目にYESと答えた人の割合が、日本は突出して少なかったという結果があります。
しかし、私としては、この結果は「日本人が冷たいから」ではなく、「何をしたらいいかわからない人やきっかけがない人が多い」ことが理由だと思っています。
実際日本人は親切な人が多いので。
だから、私たちは、「病院に同行する」、「少しお手伝いする」といった、ちょっとした支援が可能であることを広く伝えたいです。
その上で、私たちのような支援団体や個人がもっと増えて、外国人や難民申請者らへ支援がより広がるような環境の変化が、日本社会に生まれればいいなと思います。

(写真:活動の様子、提供:難民医療支援会)
・難民医療支援会プレシオン
HP:https://plesionx.org
【HYAKUYOU】編集部
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