トリリンガルのメディアコンテンツプロデューサー・丁暁琳さん
「国際文化交流のために、自分なりの『小さな光』を灯し続けていきたい」

2025.03.18

(丁暁琳さん)

丁暁琳(てい あかつきりん)さん以下、Linnさん)は中国・広州出身で、2019年にカナダの大学を卒業しました。その後、中国に戻り、しばらく働いた後、2022年に来日し、2024年に「国際教養大学専門職大学院 グローバル・コミュニケーション実践研究科 発信力実践領域」で修士号を取得。
中英日の3言語を自由に切り替えながら話せるトリリンガルです。

カナダの大学では、マスコミ・ジャーナリズム専攻(日本語副専攻)だったほか、大学卒業後中国の映画関係会社での「プロデューサー&翻訳」としての勤務経験や、香港中文大学のマスコミ教授の指導の元にポッドキャスト番組配信など、メディアコンテンツ業界で幅広く活躍されている方です。

国際教養大学大学院在学中には、TBSラジオ史上初の研修生として、自身を題材にしたドキュメンタリー制作も行いました。
大学院を終え、東京にきたLinnさん。日本の老舗店等の魅力や長く続く秘訣に迫るYouTubeチャンネル「ドキュメンタリー ・東京のお店で」の「プロデューサー&字幕翻訳」も務めたことのある彼女は、今までどんな人生を歩んできて、これからどんな人生を歩んでいくのでしょうか?

 

−−今日はよろしくお願いします!どこから聞こうか迷ったのですが、まず初めにLinnさんの自己紹介を聞いてもいいですか?

日本に興味を持ったのは、小学生の頃、テレビで放送されていた日本のアニメがきっかけです。
中国以外のさまざまな国の存在を知るきっかけにもなり、日本は私にとって世界を知るための最初の扉になりました。
コンテンツ業界に興味を持った原点とも言えます。

高校生の頃、中国語での授業が苦手でしたが、英語科目が得意という時期がありました。
しかし、インターナショナルスクール(英語教育)に通うことで、それまで苦手だった英語以外の科目の成績もメキメキ伸びたので、私の適性を見て、インターナショナルスクールに通わせてくれた父に感謝いっぱいです。

私は農村で生まれましたが、父の努力のおかげで、家族は農村から都市に移り住むことができました。
父は起業家、教育家、漢方の医師としても働いていて、弟も2025年4月から日本で大学に通い始めます。

(写真右、弟の丁凌晟さん)

 

−−インターナショナルスクールでの経験がカナダ留学に繋がったんですね!

英語教育が自分に合っていたこともあって、通常より半年早くインターナショナルスクールのカリキュラムを修了することができました。
インターナショナルスクール修了後にカナダ留学に行くつもりだったので、カナダに行くまでに半年間暇な時間ができたんです。

そこで、その半年間を利用して、以前から興味があった日本語をゼロから学び、集中して勉強できたこともあって、JLPT2級を取得することができました。

カナダ留学では、日本のアニメやポップカルチャーを通じて、様々な国籍、宗教、肌の色が異なっている人たちとでも心の距離をぐっと縮めることができるのを実感しました。
「同じ文化に共鳴する」という経験は、まるで魔法のようで、「文化の力で世界を繋ぐ」という理念に強く惹かれることになったきっかけでもあります。

大学ではマスコミを専攻していたのですが、在学中も、日本語の勉強は続けていました。
カナダ留学時代に日本語スピーチコンテストに3年連続で出場して、優勝することもできて嬉しかったです。

カナダ留学を終えて、一度中国に帰ってからは、映画関係会社での勤務や香港中文大学のマスコミ教授の指導の元でポッドキャスト番組配信に携わりました。

(カナダで日本語を通じて出会った夢を追いかける仲間たち、左から中国人、韓国人、日本人、アルジェリア人、カナダ人:Linnさん提供)

 

−−その後、来日して国際教養大学専門職大学院に進学されたんですよね!

そうですね。2022年9月に「国際教養大学専門職大学院 グローバル・コミュニケーション実践研究科 発信力実践領域」に入学しました。

国際教養大学(Akita Internatinal University、 略してAIU)の講義は全て英語で、私がこの大学の大学院を選んだのも、マスコミ関係を学びながら、日本語と英語どちらもブラッシュアップし続けたかったからです。
「発信力実践領域」は、企業や公的機関などにおける広報活動を担う専門家や、マーケティング、ジャーナリスト、メディアコンテンツを専門に作成できる人材を育成している領域です。

在学中は色々な活動をしましたが、ジャズ研の仲間たちと協力して、図書館の閉館アナウンスを自分たちで制作したのも思い出の一つです。

(写真:Linnさんの友人・佐久間息吹さん撮影)

 

−−国際教養大学専門職大学院在学中に参加したTBSラジオの研修についても教えてください!

指導教員の小西克哉先生は私の大学院の指導先生であり、小西先生とのご縁をきっかけにTBSラジオの研修に参加しました。
小西先生は昔、TBSラジオの「ストリーム」という番組でパーソナリティを務めてらっしゃった方です。

私の専攻では、卒業条件が論文を書くことではなく、実存する会社でインターンに参加することだったので、TBSラジオでの研修がこれになりました。(卒業論文を書いて卒業する選択肢もありますが、会社で卒業プロジェクトをやり、卒業を迎える学生のほうが圧倒的に多いです。)

TBSラジオの研修では、日本と中国のポッドキャスト市場の比較調査などを行ったほか、番組企画も提案しました。

私が研修生として参加した時期が、ちょうどTBSラジオがポッドキャスト(Podcast)市場を拡大したい時期でもあったので、日本より市場が大きい中国のポッドキャスト業界にTBSラジオも興味を持っていたんです。
私は香港中文大学のポッドキャスト配信のアルバイト経験があったので、ラジオ業界に興味のある私と中国のポッドキャスト業界に関心があるTBSラジオがマッチングすることができて、特例でTBSラジオ史上初の研修生になりました。
TBSラジオの研修では、私自身を題材にドキュメンタリー番組も制作させていただきました。

(上:2023年1月、下:2023年8月、季節の移り変わりが分かるTBSラジオでの研修。上の写真:左から橋下吉史さん、Linnさん、小西克哉さん、長谷川裕さん:Linnさん提供)

 

−−ぜひ、制作したドキュメンタリーの内容についても教えていただければ!

タイトルは「世界が寂しそうに見えたのは」です。
カナダ留学時代に日本語スピーチコンテストで優勝した原稿をもとにした、母との朗読劇を題材にしています。
仲良しで、尊敬する母への思いや身近な人たちの大切さを作品に込めました。
ドキュメンタリーを通じて、「伝えたいことを今すぐ、届けたい思いは迷わず」ということが皆さんに届いたらいいなと思っています。

元々は、TBSラジオでの作品ということもあって、音声コンテンツを想定していたんですが、大学の友人で、作品の監督も務めてくれた動画制作に情熱を持つ黒川周亮さんが企画に感動してくれて、「せっかくならドキュメンタリー映像企画にしないか」と素敵な提案をしてくれたんです。

(2024年春、TBSラジオでドキュメンタリーの最終確認を行っている様子。右1:黒川周亮さん:Linnさん提供)

その後も、大学の内外の友人たちがたくさん作品作りに協力してくれて、最終的には30人以上の方々が制作に携わってくれました。
図書館の閉館アナウンスを一緒に作った友人たち、AIU軽音部とAIUジャズ研究会のみんなが、作品の温度にとても相応しい主題歌「催花雨」と挿入歌「暁」を作ってくれたのもとても嬉しかったです。一生の励ましになります。

番組企画から正式発表までの1年間の制作過程では、小西先生やTBSラジオの方々からもたくさんのアドバイスをいただいて、皆様がいたからこその作品作りで、正式発表できた日の気持ちは今でも忘れられません。とてもありがたかったです。

この作品づくりを通じて、友人たちの大切さや身近な人たちへの感謝を改めて感じました。YouTubeのTBS公式チャンネルで観ることができるので、ぜひたくさんの人に観てほしいです。

(制作の1年間、音楽・デザイン・撮影チームなどとのたくさんの打ち合わせ(一部):Linnさん提供)

 

−−東京にきて、「ドキュメンタリー・東京のお店で」というYouTubeチャンネルのプロデューサーも務められていたんですよね。

「ドキュメンタリー・東京のお店で」は東京都内の老舗店や唯一無二のお店の魅力を発信するYouTubeチャンネルです。

元々中国でドキュメンタリーを中心に撮影していた中国人監督が、日本に住み始めたことをきっかけに始めたチャンネルです。中国大手メディアで活躍されていた方々が日本に移住して始まった事業であって、動画のクオリティはとても高いです。

私がプロデューサーとして働くきっかけになったのは、友人からの紹介です。
私は2024年の夏に「日中学生会議」という、日中の若者の交流団体に参加しました。
1ヵ月間続く会議を日本と中国で行い、私は会議の委員長たちの協力をいただいて、会議中にTBSラジオでみんなと一緒に作ったドキュメンタリー「世界が寂しそうに見えたのは」の上映会をしたのです。
中国人の私が日本で日本の仲間たちの助けをいただきながら作った作品なので、日中学生会議という交流を促進する場で、上映会ができたのがとても感無量でした。

(第43回日中学生会議での上映会の様子:Linnさん提供)

会議後、そこで出会った友人から、「私にピッタリの仕事がある」と紹介されて、2024年9月から「ドキュメンタリー・東京のお店で」のプロデューサーとして働き始めました。
2024年の夏に国際教養大学専門職大学院を卒業して、秋田県から東京にきて、すぐのことですね。

老舗店が長年愛される秘訣を知ることができたり、取材を通して、そうしたお店の店主さんと打ち解けていけることは楽しいです。

チャンネルのメンバーは基本的にみんな中国語しか話せないので、私が店主さんへのアポ取りを行ったり、撮影現場での通訳を行ったり、作品の日中英3ヶ国語の字幕翻訳をしたりなどしています。大変な面もありますが、撮影に協力してくださった店主の皆様、そしてお店に訪れたお客様の優しさに何度も助けられ、とても勉強になっています。

(「ドキュメンタリー・東京のお店で」撮影現場での様子:Linnさん提供)

 

−−現在もメディアコンテンツ事業に関わる中で、大切に感じたことはありますか?

私はドキュメンタリーが好きです。ドキュメンタリーは対象となる皆さんを記録し、それぞれの頑張りを伝える力がある媒体だと思っています。ジャーナリズムにも同じことが言えると思っていて、とても有意義な分野だと思います。

ただ、「発信する」ということはとても難しいですね。どのようにすれば、届けたい層に情報を届けることができるのかは試行錯誤の連続だと思います。

様々な分野の著名人による講演会を企画しているTEDx(Technology Entertainment Design)という団体がありますよね。
中国にいた頃は、そのTEDxのスタッフをしていて、カナダ留学時代にも講演を見に行っていました。
国際教養大学専門職大学院では、TEDxAkitaIntIU(※)の代表を友人と一緒に務めていて、そこでも発信することの大切さを学びました。2024年度のTEDxスピーカーでもある、秋田在住のフリーアナウンサーの田村陽子さんにも情報発信のコツを伺いましたが、「コツコツと地道にやっていくしかないんだよ」という助言をいただいたのです。プロからのアドバイスで、これからもコツコツと地道に頑張りたいと思います。

(TEDxAkitaIntIU、Connect 2024イベント当日。左から;田村陽子さん、Linnさん、(株)エフエム秋田制作部の石郷岡祐子さん、フリーアナウンサー・TEDx司会の真田かずみさん)

 

(※)TEDxAkitaIntlU
TEDxは、TEDから正式にライセンスを受け、TED同様の体験を共有することを目的として世界各地で独自に運営されているプログラム。 「x」は独自に運営されていることを意味し、TEDの定めた運用ルールに沿いながら、各地方の独自色を出して運営されている。
TEDxAkitaIntlUは国際教養大学(AIU)で運営されているプログラム。

 

−−Linnさんは発信することと同時に、それに伴い使用する言語もとても大事にしてらっしゃいますよね。

カナダ留学時代に言語学の授業で、とても印象に残っている話があります。
それは「相手にとっての第二言語で交流すると、相手の脳と交流していることになる。一方で、相手の第一言語で交流すると、相手の心と交流していることになる」というものです。(If you talk to a person in their second language, you are talking with their brain. If you talk to a person in their first language, you are talking with their heart)

私はこの名言を非常に大切にしています。
私自身、中英日のトリリンガルということもあって、経験上、相手の第一言語で話すことで、より相手に寄り添うことができるのではないかと思うんです。
これまで、中国、オーストラリア、イギリス、カナダ、日本、アメリカを訪れましたが、その中で、言語が世界をつなげていることを実感して、胸が熱くなりました。それに加え、言葉を通じて各国の人々と親交し、友情を育むことの喜びは、地面から3センチも浮いているかのような気分でした。志を同じくする三言語の仲間と夢や世界について語り合う時間は、努力の分だけ喜びも3倍となって返ってくる、最高に充実した時間です。

留学の際、マスコミ専攻に興味を持ったのも、言語を活用しながら、情報収集と情報発信ができる世界だと感じたことがきっかけです。

(秋田テレビのインターンでCM撮影している様子。撮影:Sydney Huang)

 

−−ぜひ、最後にLinnさんの今後挑戦したいことや目標等について教えてください!

私はこれまでに知り合った人たちに助けられて、色々なことに挑戦できていると思います。
そんな素晴らしい友人たちを誇りに思うと同時に、友人たちの才能や人柄をもっと色々な人に知ってほしいと思い、そのために自分の持てるリソースを活用したいと思っています。
例えば、これまでは、ポッドキャスト配信でジャズ研の友人たちが作ってくれた音楽を中国に向けて発信したり、TEDxAkitaIntlUの講演のパフォーマンスの一環として、TBSラジオのドキュメンタリーの主題歌「催花雨」と挿入歌「暁」をTEDxの舞台で演奏することを実現しました。

(写真:@you_need_an_editor。TEDx舞台上で挿入歌「暁」をパフォーマンスするAIU Rock Band Clubのメンバー。Vocal:井上ねね、Piano:桑野夏穂、Guiter:清瀬桃華、Bass:工藤心)

(写真:@you_need_an_editor。TEDx舞台で主題歌「催花雨」をパフォーマンスするAIU Jazz Circleのメンバー。Vocal:岩田実樹、Piano:伊波知瑛里、Drums:松丸成夢斗、Bass:長尾伊鉱)

これから先も友人たちに対して、心が踊るような仕事や活動の誘いをしていきたいです。
私が友人や家族を誇りに思うのと同時に、みんなにとっても誇りに思われる私でいたいと思います。

また、個人的な話では、今後はもっと中国のことを知っていきたいと考えています。
「20代は世界を知る、30代は自分を知る、40代は大切なものを知る」、これはメディア業界で日中の架け橋として活躍している先輩・山下智博さんの講演で覚えた言葉です。
振り返って見たら、私の20代は様々な国に行って、世界を知ろうとしてきましたが、その反面、中国のことを知らなさすぎたのではないかと感じ始めています。
昨年参加した日中学生会議では、私より中国のことを知っている日本人の友達と出会い、よき刺激になったのも中国をもっと知りたくなった理由の一つです。

そのため、今は3カ国語が理解できることを生かして、中国の歴史についての勉強、世界の国々はどのように繋がっているのかを勉強をしています。歴史を知ることが現在への理解に繋がると思うからです。段々と30代に近づいて行く過程での、30代になる前の準備ですね。

今後、自分の原点となる・中国のことをもっと深掘りながら、より広い世界を見て回りたいです。メディア、国際文化交流、歴史研究を組み合わせることに挑戦し、文化の力を活用して、国際的な理解を促進するのに、自分なりの「小さな光」を灯し続けていきたいです。

(写真:Linnさんの友人・佐久間息吹さん撮影)

 

・【TBSラジオ×国際教養大学専門職大学院】スペシャルドキュメンタリー「世界が寂しそうに見えたのは
URL:https://youtu.be/xGh2cADxvr4?si=Ty4AqgpMef_ZOwHF

 

・「ドキュメンタリー・東京のお店で」
URL:https://youtube.com/@tokyoshops?si=ly2H4_uFIsym5Enm

 

・国際教養大学によるLinnさんへのインタビュー「インタビュー:本学大学院生が2023 Swadesh DeRoy Memorial Scholarship Award for Penで準優勝」
URL:https://web.aiu.ac.jp/aiutopics/81609/

 

・国際教養大学専門職大学院 グローバル・コミュニケーション実践研究科 発信力実践領域
Webサイト:https://web.aiu.ac.jp/graduate/curriculum/gcp/

 

・国際教養大学によるLinnさんへのインタビュー「インタビュー:本学学生が中嶋記念図書館の館内放送を制作」
URL:https://web.aiu.ac.jp/aiutopics/56848/

 

・TED×AkitaIntlU
instagram:https://www.instagram.com/tedxakitaintlu/

 

・日中学生会議
WEBサイト:https://japan-jcsc.org

 

 

HYAKUYOU編集部】

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