
東京大学で国際関係論を専攻しながら、難民問題、入管制度、学費値上げなど、多岐にわたる社会問題に対して声を上げ続ける金澤伶さん。
高校時代にコンゴ民主共和国の紛争問題に関心を持ったことを原点に、大学1年生から実名と顔を出して、社会活動をスタートしました。
今年3月には東京大学の大学院生・佐藤雄哉さんとともに、共著『学費値上げに反対します学生たちの生活と主権』を出版しています。
ネット上での誹謗中傷や社会にはびこる冷笑主義に晒されながらも、なぜ彼女は最前線で戦い続けるのか。
その原動力や、日本社会が抱える「共生の欺瞞」、そして次世代への思いを伺いました。
高校時代の気づきと、東大での「行動」への目覚め
--まずは現在のプロフィールと、社会問題に関心を持ったきっかけを教えてください。
金澤伶さん(以下、金澤):
2003年生まれの23歳で、東京大学の4年生です。
大学では国際関係論コースを専攻し、文化人類学をサブメジャーで学んでいます。
普段は、学費問題や排外主義に反対し、今の政治状況に不安を抱く人たちと一緒に国会前で抗議活動や政府要請などを行っています。
社会問題に強い関心を持った原点は、高校1年生の時に知ったコンゴ民主共和国の紛争です。紛争手段として「性的テロリズム」と呼ばれる性暴力の犠牲になる女性たちがいることを知りました。
同時に、コンゴの紛争の原因と言われる「紛争鉱物」が私たちの身の回りの製品に使われていることにも気づき、消費者として無関係ではいられないと強く感じたんです。
--そこから東京大学に進学されたのですね。
金澤:
そうです。まず大学に入って違和感を抱いたのは、多くのクラスメートも、国際関係を専攻している学部生も、実際の紛争や社会問題に対して当事者意識を持って取り組んでいる人が少ないことでした。
研究を志す人も、「研究のための研究」をしているような感じで、いい論文を書くことが目的化しています。
それに違和感が募り、日本の主権者で大学生の自分だからこそ、できる行動をやり続けようという思いを強くしました。
最初は難民問題から入り、大学1年生の時から顔と名前を出して活動を始めました。
今どんどん差別が過激化していますが、入管政策を批判したり難民の権利擁護をしたりすると、犬笛型の誹謗中傷の標的になって、ネット上で叩かれるなど発言しづらい雰囲気があります。
活動の意義を感じる前に、活動を辞めてしまう人も多いです。
就職を機に活動しなくなることも。活動する上でリスクを感じる集団圧力があるからだと思います。
そもそも、難民当事者は、公で発言することで自身にとって生命の危険に直結する場合もあります。
だからこそ、そういう人たちのためにも自分が矢面に立とうと思ったんです。

難民・入管問題の理不尽と向き合う
--活動の中で、具体的にどのような取り組みをされてきたのでしょうか?
金澤:
最初は難民についての啓発活動として、オリンピックの難民選手団のバックグラウンドに焦点を当てた写真展を企画しました。
その後もアイデアコンペティションや「なんみんフェス」などを開催し、当事者や企業、国連、NGO、財団などを巻き込んだムーブメントを作っていきました。
ただ、人々の意識を変える活動をいくらやっても、政治が変わらなければ限界があります。難民申請中の人たちが、先が見えず、日々の暮らしに困窮し、子どもも学びを続けられないような状況を見続けてきました。
「日本人ファースト」の標的であり、常に国家の不安定材料として見なされる彼らにもっと寄り添いたいと思い、2023年12月に発足した「仮放免高校生奨学金プロジェクト」に当初から参画しました。
--「仮放免」の高校生たちは、どのような状況に置かれているのでしょうか?
金澤:
入管に収容されず、一時的に外での生活を認められているのが「仮放免」です。
日本で生まれ育って日本語が流暢な子どもがほとんどで、ビザがないというだけで高校の授業料無償化の対象外になり、大学や専門学校からも入学を拒否されることがあります。
普通の日本ルーツの子どもよりもよっぽど勉強熱心で才能あふれる子どもが、ビザがないだけでスタートラインにすら立てない。
進学できなければ、ビザを得る機会も損なわれます。
難民条約にも、子供の権利条約にも違反しているような日本の状況は絶対におかしいと思いました。
--それが、入管法改正への抗議などにつながっていくのですね。
金澤:
はい。2023年6月に成立した改正入管法(3回以上難民申請している人を強制送還できる制度)は、国際法違反だと散々指摘されていました。
さらに、一部の政治家やヘイト勢力によってネット上で外国人(特にクルド人など)に対するデマが拡散され、それに乗っかる一般の人も増えています。
差別政策を掲げて地方議員に当選したり、SNSや動画などで収益化したりする人が増えてきている影響もあるでしょう。
1年以上前ですが、そうした匿名のインフルエンサーによって、クルド人の友人が写真の盗用やデマの被害に遭ったため、SNSで注意喚起をしたところ、私宛に1000件以上の誹謗中傷が届き、大学にまで「退学処分にしろ」といった迷惑電話をかけようとする人まで現れました。
プラットフォーマーも警察も十分に対応してくれず、今の日本の人権意識の低さを痛感しています。
実はつい先日、ようやく告訴状が受理されました。
デマやヘイトの標的になっているクルド人や、外国籍の子どもたちは、SNSを見るのも、駅前に行くのも苦痛を感じていると言います。
こんな偏狭でヘイトが溢れる、子どもたちにとっても不健全な社会であって良いのでしょうか。
一刻も早く、罰則つきの包括的差別撤廃法の整備が必要だと思います。

活動の中で知った「正義の多面性」
--社会課題と向き合う中で、ご自身の人生観や考え方が変わった出来事はありましたか?
金澤:
2023年のトルコ・シリア大地震の時の経験が大きかったです。
在日シリア人の友人たちと一緒に動画投稿やチャリティーイベントなども企画しました。
復興支援のためのクラウドファンディングなども、日本人主体・在日シリア人主体、それぞれ行われました。
私が関わったものの中で、在日シリア人から不信感を持たれているNGO団体と接触する機会がありました。
一見、いわゆる「いいこと」をやっているように見えていたり、目指す方向性が同じであったりしても、その手段ややり方が本当に正しいのか、誰かを傷つけていないかを考えなければならないと気付かされました。
立場が変われば「正義」は全く異なるということを痛感したのです。
その時、私はまず何よりも、目の前で苦しみ、周縁化されている当事者の声なき声に目を向けようと決意しました。
それ以降、私は徹底的に当事者に寄り添う姿勢で活動を貫くようになります。
学費問題やジェンダー。身近な「怒り」を力に変える
--金澤さんは、2024年の東大学費値上げ問題でも声を上げられました。留学生や難民だけでなく、学生自身の問題にも取り組む理由はなぜですか?
金澤:
単純に、声を出さざるを得ない状況に追い詰められているからです。
留学生も、難民も、学生も。そもそも声を上げ始めたのは、東大学費値上げ問題より前に、移民の友人が「学費を免除し過ぎた分44万円を3週間以内に納めないと除籍処分にする」と大学に脅された事件に直面してからでした。
根底にある問題は、日本の高等教育は公的支出が低く、「教育はサービスだから受益者である学生や親が払うべき」という自己責任論や家族主義が根強く残っていることです。
でも、今は半分以上の学生が奨学金という名の借金を背負って社会に出る時代です。
学費を払いながら研究もして、将来は不安定な雇用しかない。
例えば、こんな状況で「子どもを産め」と言われても無理ですよね。結婚すら躊躇している人も多いです。
私たちの世代は、主権者としての権利も、人として当たり前に生きる権利も、どんどん削られているんです。
だからこそ、さらに悪循環を生み出す自己責任論や、時代状況にそぐわない家族主義といった社会を汚染する思い込みを打破したいと思っています。

--そうした行動の根底には、幼少期からの違和感もあるのでしょうか?
金澤:
そうですね。
幼稚園の時、迎えに来るのが「お母さん」だけなのを見て「女だからこういう役割を押し付けられるんだ」と絶望した記憶があります。
小学生の時には、両親の旧姓を知り「名前を変えた/変えさせられた母親と、変えさせた父親」の双方に不信感を抱きました。
名前は自分のもっとも大事なアイデンティティなのに、それを途中で変えるなんてあり得ないと思います。
その根源的な怒りや違和感がずっと私の中にあります。
--「怒り」が金澤さんの原動力になっているのですね。
金澤:
最近、怒りを自覚できるってすごく幸せなことだなと思うんです。
自分の権利が権力者に不当に奪われていると気づき、「私は一人の人間としてもっと尊重されるべきだ」と思えるからこそ、怒りが湧きます。
怒りを向ける矛先を間違えてマイノリティを叩くのではなく、正しく権力に向けることができれば、それは社会を変えるポジティブな力になるはずです。
「共生社会」の欺瞞と、歴史から目を背けないこと
--昨今「共生社会」という言葉がよく使われますが、金澤さんはどう捉えていますか?
金澤:
「今から共生社会を作ろう」なんて遅すぎます。すでに私たちは共に生きているんです。
すでに税金を納めたり、働いたり、そうでなくとも人間として生活している人たちがいて、支え合って生きています。
それなのに、「真に共生している」とは言えない状況があることです。
当事者に発言する機会や政策決定の権利を与えず、当事者ではない人たちが決定を下しているからこそ弊害が起きています。
そこに見え透いているのは、「経営者に都合のいい、低賃金で文句も言わずに働く外国人が欲しい」という本音です。
経営・管理ビザを申請する人に対して、資本金要件3000万円に引き上げ、結果日本でエスニック料理店を営む外国人が廃業や帰国を迫られています。
特定技能の人には「単純労働しかさせない」、難民申請中の人には「母国に帰れ」と言い、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」で日本生まれの少女すら強制送還しているのです。
今、入管法改悪案が審議されていて、在留資格の更新手数料の大幅引き上げが行われようとしています。
これによって難民申請者など困窮者がますます排除されることは明らかです。
特定技能や難民申請中など、ステータスによって扱いが天と地ほど変わるのは、明確に差別が制度化されているからです。
目の前にいるのは同じ人間なのに、なぜここまで扱いが変わるんでしょうか。
まずは「共生」を語る側の欺瞞を排除しなければ、本当の共生はあり得ません。
--日本社会の共生の難しさは、どこにあるのだと思いますか?
金澤:
深刻なまでの外国人嫌い、強いて言うなら「白人以外」への差別意識があると感じます。
政治家や官僚に根付く対米追従の姿勢や、歴史的なコンプレックスから抜け出せていないことも影響していると思います。
何より、日本がやってきた加害の歴史をきちんと学んでいないことが大きいです。
関東大震災の時も、日本人や中国人、社会主義者を含めた、朝鮮人とみなされたアジア人たちを虐殺しました。
大日本帝国時代の植民地支配などについても、自分たちがやってきたことから目を背けたり、歪曲したりする動きがあります。
旧Twitterの同時翻訳機能で、「南京大虐殺はなかった」という主張が全世界に拡散されました。
かつての戦争が侵略だったか分からないと答える人が半数を占めています。
「原爆を落とされた敗戦国」という被害者意識が先行しがちなことも影響していると思います。
現状、反省も賠償もせずに自己正当化しているように見えるので、周辺国との関係性を築く上で大きな障壁になっていると思います。
--歴史の捉え方や教育についても危機感を持たれていますね。
金澤:
はい。今の教科書はどんどん記述が変わっていて、南京大虐殺や「慰安婦」の記憶を消そうとしたり、「強制連行」が強制ではないように変えられたりと、少しずつ歴史が修正されています。
教育が権力者に握られ、権力者側に都合のいい物語として再生産されていくことには、非常に強い危機感を持っています。
アジア諸国への侵略戦争の記憶を訪ねたり、「慰安婦」や、関東大震災における大虐殺の証言活動などにも参加するようにしています。先日、東京大学駒場キャンパスで「教育と愛国」という教育への政治介入をテーマとする映画を上映しました。
次世代に「消耗する社会」を残さないために
--最後に、今後の目標や、同世代・次の世代へのメッセージをお願いします。
金澤:
究極の夢は、誰もが精神的な安全性を保ちながら、自由に声を上げられる社会を作ることです。
日本には「国内人権機関」がないため、人権侵害を受けた時に訴える公的な第三者機関がありません。
弁護士の方々の善意や自己犠牲に頼りきりな現状を変えるためにも、仲間を集めてそうした機関を作るための運動をしていきたいです。
私は日本という国で育ったことに感謝もしていますが、同時に、人間が尊重されないいまの政治のあり方をすごく恥ずかしいとも思っています。
現在の国の方針は嫌いですが、愛着があるからこそ変わってほしいです。
自分が消耗するだけのこの社会を、次の世代に押し付けたくはありません。
自分の主張を通すだけでなく、不利益を被るかもしれない人たちの身になって、みんなで権利擁護の運動を広げていけば、社会は必ずもっと「マシ」になると思っています。
私はそう信じて戦い続けます。

金澤伶さん
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金澤伶さんの書籍
『学費値上げに反対します──学生たちの生活と主権』
https://chiheisha.co.jp/2026/02/26/978-4-911256-42-8/
【HYAKUYOU編集部】