【特集】「1は0より大きい」と信じた20年──在日華人と日本社会の共生を紡ぐ「日中ボランティア協会」の軌跡と未来

2026.06.10



在日華人や外国人に対する無償の支援を通じて、日本社会とのより良い共生を目指して活動を続けてきた「一般社団法人 日中ボランティア協会」が、2026年2月18日をもって創立20周年を迎えた。

それに際し、2月15日には東京都内で「共生・愛・和平」をテーマにした記念大会が盛大に開催された。

当初わずか10人で産声を上げた同会は、いかにして5万人規模の巨大ボランティア組織へと成長したのか。

十数万件に及ぶ相談・援助を支えてきた現場の声と、次なるステージに向けたボランティアたちの展望に迫った。




10人から5万人へ、紡がれた支援の輪


2006年2月18日、留学生や有志10人によって設立された日中ボランティア協会。

それから20年という歳月を経て、同会は5万人のメンバーを擁する団体へと成長を遂げた。

これまでに受けた相談や援助要請は十数万件にのぼる。

日常の些細な困りごとから、労働問題、不慮の事故など命に関わる重大な事案に至るまで、協会は国籍を問わず困難に直面する人々に寄り添い続けてきた。

その献身的な活動は、日本の主流メディアから「救命電話」と称賛されるほどだ。

協会の根底に流れる哲学は、論語の「徳は孤ならず、必ず隣あり(徳のある人は決して孤立せず、必ず助け合う仲間が現れる)」、そして「1は0より大きい(何もしなければゼロだが、少しでも行動すれば誰かの助けになる)」という精神である。

政治や宗教からは完全に中立の立場を保ち、名声や利益を求めない「無私の奉仕」を貫いてきた。




感謝と感動に包まれた記念大会


2月15日(日)、北とぴあ(東京都北区)にて開催された創立20周年記念大会には、主要理事や日本の弁護士団、ボランティア会員など約260名が参加した。

第一部のシンポジウムでは「共生とボランティア」をテーマに、在留資格の変化や日本社会における外国人経営者の現状などについて活発な議論が交わされた。

第二部の表彰大会では、20年間の活動を支えた優秀ボランティア120名が表彰された。
中でも、10年以上にわたり並々ならぬ貢献を続けた22名には金賞が授与され、会場は大きな拍手に包まれた。

第三部の文芸匯演(コンサート)では、合唱や民族舞踊、二胡の独奏などが披露され、最後は参加者全員で「中日志願者之歌」を合唱し、盛況のうちに幕を閉じた。




現場を支えるボランティアたちの声


記念大会で賞を受賞した現場のボランティアたちに、活動への思いを聞いた。

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盧翠翠さん(銀賞受賞)

この協会の最も貴重な核心は「愚直な精神」です。

名誉や利益を求めず、政治的・宗教的な色を持たずに、自分が損をしてでも助ける。

大多数の人が利益で動く社会の中で、これを20年も続けるというのは本当に難しいことです。

同じ志を持つ仲間が集まるこの場所には、強い帰属意識を感じています。

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馬二明さん(銀賞受賞)

活動の原動力は『無私の奉仕』です。
私たち自身、海外で奮闘していた頃は無力でしたから、困っている人を助けたいと思うのです。

一人では解決できないことも、協会を通じて多くの人が集まれば解決できます。
ただ、私たちの能力には限界があるので、まずは地に足をつけて、自分の身近なところから支援を行っていくことが大切だと思っています」

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ある銀賞受賞者の方(仮名・Aさん)

文化や法律の違いから、日本で困難に直面する外国人は少なくありません。

私たちは通訳や法律支援を通じて彼らをサポートしています。

こうした活動を通じた日本人とのコミュニケーションは、偏見をなくし、中国人や華人のポジティブなイメージ向上にも繋がっています。

20周年を新たな始まりとして、民間レベルの交流で両国の友好的な発展を促進していきたいです。




会長、常務副会長へのインタビュー──草の根の精神から「自立した組織」へ


協会の屋台骨として長年牽引してきた張剣波会長と、若手経営者として新たな風を吹き込む郭磊常務副会長に、これまでの歩みと今後の展望について話を伺った。



【会長・張剣波氏インタビュー】


――創立20周年おめでとうございます。改めてこの20年を振り返っての率直なご感想をお聞かせください。

会長・張剣波氏(以下、張会長):
波瀾万丈な20年でした。

当初、私が博士課程の学生だった頃に協会を立ち上げた時、周囲からは「自分の就職も決まっていないのに、何をやっているんだ」と笑われました。

しかし、困っている人を助けることの「社会的意義」は、個人の利益よりもはるかに大きいと信じて続けてきました。今回、表彰者の選定などで20年間の資料を整理しながら、何度も胸が熱くなりました。


――資金も専従スタッフもいないなかで、なぜこれほど長く活動を続けることができたのでしょうか。

張会長:
最も大きな理由は「人の和」、つまり無私で献身的なボランティアの方々の存在です。

「徳は孤ならず、必ず隣あり」という言葉の通り、私たちが正しいことをしていれば、必ず同じ志を持った人々が集まってくれます。

今回、10年以上にわたって活動してくれた金賞受賞者が22名もいました。

私一人の力ではなく、彼らが黙々と支えてくれたからこそ、10万人以上の人々を助け、絶望的な状況にあった命を救うことができたのです。


――今後の協会が進むべき方向性について、どのようにお考えですか。

張会長:
私たちはこれまで、資金がない、場所がない、専従スタッフがないという「三無団体」として活動してきました。

しかし、社会の変化に対応し、長期的に組織を存続させるためには、これを「三有(資金・場所・スタッフがある)」へと変えていかなければなりません。

政治や宗教から中立であるという「純粋な民間団体」の根本は絶対に守りつつ、適正な報酬を伴う専門的な支援スキームも取り入れながら、持続可能な運営体制を構築することが次の目標です。



【常務副会長・郭磊氏 インタビュー】


――郭副会長が協会に参加された経緯と、この協会の魅力について教えてください。

常務副会長・郭磊氏(以下、郭副会長):
私は2010年に来日し、大学在学中の2013年に起業しました。

生活基盤ができたことで公益活動に関心を持ち、2014年に協会の活動に参加し始めました。

この協会の最大の特色は、「在日華人・華僑を助ける」「日本社会とのより良い共生を促進する」という、ブレない中心思想を持っている点です。

多様な人々がそれぞれの目的で関わりながら、本当に助けを必要としている人にリーチできる素晴らしいプラットフォームだと感じています。



――「三無から三有へ」という協会が抱える課題については、若手経営者としてどのようにお考えですか。

郭副会長:
長期的に公益活動を続けるためには、善意だけに頼るのではなく、自動的に回る仕組み、「自立した運営能力・収益源」を持つことが不可欠です。

これまでの20年間、無償の活動を続けてきたこと自体がすでに奇跡ですが、これからはより多くの専門的な人材を巻き込み、組織としてステップアップしなければなりません。



――今後、郭さんご自身はどのように協会に貢献していきたいですか。

郭副会長:
大きく3つあります。

第一に協会の正しい方針に従ってブレずに進むこと。

第二に長期的に存続できる仕組みづくりを考えること。

そして第三に、私の強みである「青年」と「商業(ビジネス)」の視点を活かし、外部との連携を促進することです。

各華僑団体や他の組織と融合し、力、アイデア、資金など、皆がそれぞれの強みを発揮して協力し合える「架け橋」になりたいと考えています。


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「無私の奉仕」という言葉を活字にするのはたやすいが、それを異国の地で20年という長きにわたり実践し続けることは並大抵の覚悟ではない。

今回の取材を通じて見えてきたのは、カリスマ的な一人の力で動く組織ではなく、損得勘定を抜きにして「目の前の困っている人を放っておけない」という、愚直なまでに純粋なボランティアたちの姿であった。

彼らの行動の一つひとつが「1は0より大きい」という哲学を体現し、結果として十数万件もの支援へと結実したのだ。

一方で、社会情勢が複雑化するなか、純粋な善意だけでは解決しきれない課題も増えている。

張会長や郭副会長が語った「三無から三有への脱却」、すなわち持続可能な運営体制への移行は、協会が次の20年を生き抜くための必然的なステップだろう。

「徳は孤ならず、必ず隣あり」。

20年間培われてきたこの精神の灯火が、世代を超えて受け継がれ、日本社会における真の共生への道をさらに明るく照らし出すことを期待してやまない。






(取材・文/劉聡/在日中国人ライター。外国特派員協会(FCCJ)会員)

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