
8月17日、日本外国特派員協会(FCCJ)において、西原孝至監督による最新ドキュメンタリー映画『ナウ アンド ゼン』の試写会および記者会見が開催された。
関東大震災後のジェノサイドから100年という歴史と、現代の入管庁の難民認定制度・強制送還の問題を交差させ、過去と今の「声」を繋ぐ本作。
会見には西原監督とプロデューサーの増渕愛子氏が登壇し、映画制作の背景や社会に向けたメッセージを語った。
当メディアの記者も参加し、共生社会の実現について質問を投げかけた。
100年前の虐殺と現在の入管問題を重ねて
映画『ナウ アンド ゼン』は、若者の政治参加や人権問題などを長年記録してきた西原孝至監督の最新作。
本作は、入管施設での過酷な状況や難民認定率の低さと、1923年の関東大震災後に発生した朝鮮人・中国人虐殺という歴史的事象を繋ぎ合わせ、日本社会に根付く差別や排外主義の連続性を浮き彫りにしている。
西原監督は制作のきっかけについて、「ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった事件を知り、助けを求める人に適切な医療が与えられなかったこと、そして入管がいまだに真摯な反省を見せていないことに憤りを覚えた」と語った。
また、入管法が改正された2023年が関東大震災からちょうど100周年であったことにも触れ、「日本政府や東京都が歴史を直視していない。100年前の虐殺と、現在の入管施設で苦しむ外国人の方々の姿が重なり、これらを一つの映画として描けないかと考えた」と明かした。
前作『百年と希望』でもタッグを組んだプロデューサーの増渕愛子氏は、ロッテルダム国際映画祭に参加した際に監督からこの構想を聞いたという。
「2つの事象がどう繋がっているのか、いまいち言葉にできないものを映画という言葉以外のメディアで表現することは非常に重要だと思い、参加を決めた」と制作の経緯を振り返った。

悲劇を繰り返さないために歴史から学ぶ
会見に出席した記者からの「再び同じような悲劇(虐殺)が起きる可能性はあるか」という質問に対し、西原監督は「過去の悲劇を繰り返さないためには、歴史から学んで真摯に反省することが一番の出発点。しかし、現在も歴史修正主義的な動きがあり、私自身強い危機感を覚えている」と回答。
「昨今の選挙でも排外主義を掲げる政党が躍進している。それを食い止めるには、日常生活のレベルで一つひとつの差別の種を摘んでいくしかない。まずは過去にこういうことがあり、現在こういう状況にあるという事実を知ってほしい」と訴えた。
また、本作の音楽は今年春に急逝した音楽家・篠田ミル氏が担当している。
篠田氏は前作『百年と希望』に引き続き音楽を手がけており、西原監督や増渕氏にとっては大切な仕事仲間であり友人でもあった。
会見では来場者から「悲しいテーマに対して怒りのようなものを感じる、非常に印象的な音楽だったが、どのような意図があったのか」と問われ、西原監督が篠田氏との制作エピソードを明かした。
昨年の秋、音楽が入っていない状態の映像データを篠田氏に送り、オンラインで打ち合わせを行ったという。
篠田氏は映像を見た際、特に仮放免中の3人の姿が印象に残ったと言い、「『宙ぶらりんになっている状況』というのがすごく悔しいし、それを表現したい」という思いから楽曲を制作。
西原監督は、篠田氏から最初に送られてきたその音楽を聴いて「これだな」と直感し、一発で採用を決めたと語った。
彼の残した、感情に深く寄り添う音楽が、本作にさらなる感慨を与えている。

相手を知り、「知らない」と自覚する。多文化共生への第一歩
本作が描く100年前の虐殺と現代の難民・移民問題は、多文化共生社会実現の困難さも私たちに問いかけている。
会見の終盤、私(劉聡)もマイクを握り、「お二人が考える多文化共生社会とはどのようなものか。また、その実現には何が必要だと思うか」と尋ねた。
これに対し西原監督は、「他者を排除しようという動きは、相手を知らないという『恐怖』から生まれるのだと思う。だからこそ、相手のことをよく知ってみよう、話してみようという態度がとても重要だ」と強調。
「映画の最後に登場する『難民・移民フェス』のように、多様なバックグラウンドを持つ人々が一堂に会し、対話できる場所を日本社会にもっと作っていくことが大切。カフェで隣の人と話してみるといった小さなレベルから対話を重ねることが、共生社会に繋がるのではないか」と答えた。
増渕氏もこれに補足する形で、「『知る』ことは大前提だが、『自分は知らない』と自覚する姿勢もすごく大切。ステレオタイプは『何かを知っている』という前提から生まれることが多い。実は私たちは知らないことばかりだと気づく姿勢が、もっと相手を知ろうとするきっかけになる」と述べ、多様性に向き合う上での謙虚な姿勢の重要性を説いた。
8月29日よりユーロスペースにて公開
ドキュメンタリー映画『ナウ アンド ゼン』は、8月29日(土)より東京・渋谷のユーロスペースにて劇場公開される。全国順次公開予定。
西原監督は、「この映画が、観客にとって過去と現在を知るきっかけとなり、上映後に一緒にこの問題について話し合う対話の場となることを願っている」と締めくくった。
排外主義の波が強まる現代において、日本社会が抱える課題に正面からカメラを向けた本作。
作品が多くの観客に届き、私たちが共に生きる社会について議論する契機となることが期待される。

・映画『ナウ アンド ゼン』
HP:https://ml9films.com/works/now-and-then
(取材・文/劉聡/在日中国人ライター。日本外国特派員協会(FCCJ)会員)