日中韓のルーツを持つ大学生 / 「無国籍ネットワークユース」代表・田哲さん
無国籍問題は「死活問題」。マレーシアの現場で見た、命に関わる緊急性

2026.09.13
(田哲(Tian Zhe)さん)



韓国で生まれ、日本で育ち、中国にもルーツを持つ19歳の田哲(Tian Zhe)さん。

現在は早稲田大学国際教養学部の2年生として国際関係や国際協力を学び、間もなく香港大学への交換留学を控えるなど※、国境を越えてアクティブに活動しています。

また、学業の傍ら、無国籍や難民問題の啓発・支援に取り組む学生団体「無国籍ネットワークユース」の代表も務めています。

かつて「自分は何人なのか」という複雑なアイデンティティの葛藤に悩んだ時期もあったという田さん。

しかし、その経験を自身の強みへと変え、現在は「国籍」という枠組みにとらわれない生き方を模索しながら、無国籍者が抱える見えづらい人権問題に真っ直ぐに向き合っています。

今回のインタビューでは、多国籍なバックグラウンドを持つ彼ならではの視点から、直近に参加した日中韓の国際会議でのリアルな学び、マレーシアの支援現場で痛感した無国籍問題の「緊急性」、そしてこれからの多文化共生社会に欠かせない「個人のつながり」の重要性について、語っていただきました。

※ 記事公開時(9/13)には既に交換留学中です。




多様なルーツとアイデンティティの模索


--今日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介をお願いできますか?

田哲さん(以下、田):
よろしくお願いします。

僕は、現在19歳で、早稲田大学国際教養学部の2年生です。

関心を持っている分野は国際関係や国際協力です。

僕自身のバックグラウンドが少し複雑で、国籍は韓国、父が中国出身で母が韓国出身です。

韓国で生まれましたが、幼稚園に入る前に日本に来たので、育ちは日本になります。

幼稚園に入るまでは韓国と行き来することが多かったです。

日本では永住権を持っていて、中国ではビザが不要になる「旅行証」を持っています。



--日本、中国、韓国の3カ国に深く関わっているのですね。そうしたルーツが、今の田さんの興味関心や活動の原点になっているのでしょうか?

田:
はい。

高校時代に「自分って何人なんだろう」と、アイデンティティについて、すごく悩んだ時期がありました。

ただ、悩むと同時にエッセイやスピーチのコンテストなどに参加して、多国籍者として生きる自分の思いを発信し続けたんです。

その中で同じような境遇の人たちの声を聞き、「世の中生きづらい面もあるけれど、国籍が複数あるからこそ得られる学びもある」と気づきました。

そこから国際関係や国籍問題に関心を持つようになり、今の学部に入学しました。



--ちなみに、韓国籍ということは兵役の義務もあるのですか?

田:
それが今の悩みどころでして(笑)。

このまま韓国籍でいる以上は最短で1年半の兵役に行かなければなりません。

国籍を日本や中国に変えることも考えましたが、家族の思いや、これまで韓国人として生きてきた自分自身のバックグラウンドもあるので、そう簡単には決められません。

もし行くとすれば、今のところ、香港への交換留学が終わった来年の5月以降に休学して行くことになるかなと考えています。




「小さな国連」での経験と学び


--つい先日、韓国で開催された国際会議に参加されたと伺いました。どのような会議だったのでしょうか?

田:
8月6日から13日にかけて、韓国・仁川で開催された日中韓共同のユースサミットに参加しました。

日中韓三国協力事務局(TCS/Trilateral Cooperation Secretariat)という国際機関が主催した模擬会議です。

日本、中国、韓国、そして中立であるTCSの4つのチームに分かれて、各国の立場で政策を発表し、最終的に3カ国共同の声明を出すという「小さな国連」のような内容でした。



--各国の代表は、それぞれの国籍の学生だけで構成されているのですか?

田:
そこが面白いところで、例えば「韓国チーム」であっても、内訳は韓国籍4人、日本国籍2人、中国国籍4人のようにミックスされているんです。

自国の学生だけで固まると意見がバチバチに対立してしまうため、「日中韓の協力」というコンセプトのもと、あえてバランス良く構成されています。

ただルールとして、大統領や首相などの「トップ」は必ずその国の国籍の人が務め、その下にある各省庁のリーダーは他国籍の人が務めることになっていました。



--田さんはどのような役割を担当されたのですか?

田:
僕は「中国チーム」の中で、日中韓3カ国の教育・文化交流を担当する部門のトップを務めました。

日本でいう文部科学大臣のような役割です。



--具体的にどのような政策を提案したのでしょうか?

田:
あくまでフィクションですが、3カ国の学生間の交流を促進するために、学生ビザ取得のハードルを下げることや、姉妹都市間の交流促進、市長会談・学生交流の推進、HSKやJLPT、TOPIKといった言語試験の開催回数を増やして言語に触れる機会を作ることなどを提案しました。

参加者の中にはすでに国際関係の博士号を持っていたり、国連職員の内定が決まっていたりするスペシャリストもいて、僕にとっては学ぶ量が膨大で、非常に刺激的な経験になりました。

8月21日から香港大学社会科学部に1年間交換留学に行くので、この経験を活かしてさらに学びを深めたいです。




無国籍ネットワークの活動と現場の「緊急性」


--続いて、ぜひ「無国籍ネットワークユース」での活動について教えてください!

田:
無国籍ネットワークは、無国籍や難民問題にアプローチするNPO法人です。

僕が代表を務める「ユース」はその学生団体にあたります。

大学の中国語のクラスで、団体の創設者である陳天璽教授に出会い、誘っていただいたのが加入のきっかけです。

国内では他大学の国際協力サークルや団体とコラボして、ワークショップを開くなどの啓発活動がメインです。

その他、難民やディアスポラの研究に携わる教授をお招きして、特設セッションを開いてもらったり、学校を訪問して無国籍、難民問題のことについてレクチャーをするといった活動もあります。

年に1回、マレーシアのサバ州に赴いて無国籍の子供たちと交流し、教育支援を行う活動もしています。



--無国籍問題について、日本国内ではどのような課題があると感じていますか?

田
実は、日本は無国籍者の地位に関する国際的な協定に加入していません。

そのため、国内に無国籍者が何人いるのかすら正確に把握されておらず、国としての政策も整っていません。問題が一般的に認知すらされていないのが実情です。

ですから、僕たちが民間レベルで啓発活動を行い、社会や国にこの問題を認知してもらうことが第一歩だと思っています。



--日本社会では、無国籍というとあまりイメージが湧かないかもしれませんね。

田:
社会では「無国籍=不法滞在・犯罪者」というネガティブなイメージを持たれがちです。

しかし、実際は不可抗力で無国籍になってしまう方がたくさんいます。

個別具体的な例は伏せますが、例えば、主権国家が誕生する前からその地に住んでいた先住民族が、国境線が引かれたことで突然「無国籍」とされてしまったり、出生の複雑な背景や出稼ぎの過程で書類の不備などにより身分を証明できなくなったりするケースがあります。

国籍がないというのは人権問題にも深く関わっています。

適切な教育も医療も受けられない、国家間の移動もできない、就労の自由がないという点で、現代社会の生活において致命的です。

ミャンマーにおけるロヒンギャ族の問題などもそうです。

政府から迫害された宗教的なマイナーな集団が他の隣国に避難し亡命する。しかし、亡命した先でも受け入れてもらえない。だからそこで無国籍になってしまう。

無国籍と一括りに言っても、ケースによって、深刻度がそれぞれ違うんです。



--実際に支援の現場を見て、印象に残っているエピソードはありますか?

田:
今年の春にマレーシア・サバ州で、先住民であるバジャウ族のコミュニティを訪問した時のことです。

彼らは国籍がないため、IDがありません。

IDがないと病院にも行けず、薬ももらえません。

そのため、子供がただの風邪で発熱しただけで、命を落としてしまうことがあるんです。

それまでは無国籍を「人権問題」として頭で理解しているつもりでした。

しかし、現場で無国籍者が直面する現実を目の当たりにして、これは小さな病気であっても命に関わる「死活問題」であり、一刻も早く解決しなければならない「緊急性」のある課題だというように、認識が大きく変わりました。




持続可能な支援の難しさと今後の展望


--無国籍の方々を支援する上で、最も難しい壁は何でしょうか?

田:
「持続可能な支援システムの構築」です。

難民であれば、国際社会やユニセフなどの支援を受けやすいのですが、無国籍者はその国の法律上「不法滞在」というグレーゾーンに置かれていることが多く、他国が介入することが難しいんです。

また、見つかれば強制送還されてしまうため、当事者は表に出られず、隠れながら生活しています。「この子を支援してください」とメディアに顔を出すこともできません。

ここが一番の課題です。



--そうした課題に対し、田さんは今後どのように取り組んでいきたいですか?

田:
インカレサークルのような学生団体の枠組みではできることが限られているため、ユースの組織をNPO法人化するなど公式な基盤を作りたいと考えています。

現在、マレーシアの無国籍支援のコミュニティとパイプができているので、外部に情報が漏れない安全な機密状態を保ちながら、現地の無国籍者の学校とオンラインで提携し、持続的な支援ができるシステムを構築することが僕の目標です。




多文化共生に必要な「個人と個人のつながり」


--最後に、日本社会が今後「多文化共生社会」に進んでいくとして、その上で必要だと感じることを教えてください!

田:
歴史的な背景や領土問題など、国と国の間にはどうしても衝突する部分があります。

それを乗り越える秘訣は「個人と個人のつながり」だと信じています。

ニュースや報道だけを見ていると、国単位でヘイトの感情が湧いてしまうかもしれません。

しかし、自分の身近に中国や韓国の友人がいて、「個人的にはこんなに仲良くしてくれている」という実体験があれば、「国はこう言っているけれど、個人単位で見たら違うよね」と気づけるはずです。

だからこそ、日本の若者には、国内にいる外国の方とまずは交流してみてほしいです。

SNSにおけるヘイトスピーチなどを鵜呑みにせず、相手の多様な背景を知り、個人のつながりから自分の考えを構築してほしいと願っています。



--理解する前に、まずは「知る」ことが大切ですね。

田:
そしてもう一つ、「国籍」というものの見方も少し変えてみてほしいです。

今の世の中、人々の交流が盛んになる中で、日本国籍、韓国国籍といったカテゴリーや枠組みに縛られない生き方の選択肢があってもいいのではないか。そんな視点を持っていただけたら嬉しいです。



--本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。これからのご活躍、そして香港での留学生活も応援しています!




・NPO法人 無国籍ネットワーク
HP:https://stateless-network.com/


・無国籍ネットワークユース(Stateless Network Youth)
Instagram:https://www.instagram.com/statelessnetwork_youth/
Facebook:https://www.facebook.com/statelessnetworkyouth/


・日中韓三国協力事務局(TCS)
HP:https://www.tcs-asia.org/jp/main/






(取材・文/劉聡/在日中国人ライター。日本外国特派員協会(FCCJ)会員)

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