日本語講師のリフカイザ・プラヴァングスタさん
「インドネシアから日本を見つめて。文学、社会問題、そしてクラシック映画へ」

現在、国際交流基金の日本語講師基礎研修プログラム(6ヶ月間)に参加するため、インドネシアから来日中のリフカイザ・プラヴァングスタさん(通称:キカさん)。
インドネシアのパジャジャラン大学で日本語講師を務めながら、日本の文学や社会問題、そしてクラシック映画まで幅広い関心を持ち、精力的に研究を続けています。
過去に1週間の短い訪日経験はあるものの、今回が初めての日本での長期滞在となるキカさん。
今回は、日本文化へ興味を持ったきっかけや、修士課程で取り組んだ日本の社会問題についての研究、そしてご自身の視点から考える「多文化共生」について、ざっくばらんにお話を伺いました。
作家・遠藤周作から始まった「日本」への興味
--まずは自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
リフカイザ・プラヴァングスタさん(以下、キカ):
リフカイザ・プラヴァングスタと申します。「キカ」と呼んでください。インドネシアから参りました。
現在は、インドネシアのパジャジャラン大学で非常勤の日本語講師をしています。
今回は、国際交流基金の日本語講師基礎研修に参加するため、約6ヶ月間の予定で日本に滞在しています。
--キカさんがそもそも日本に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
キカ:
漫画やアニメから日本に関心を持つ方も多いと思いますが、私の場合は日本の文学からでした。
高校時代から日本語の勉強を始めましたが、大学の時一番惹かれたのは作家・遠藤周作の作品です。
--どの作品がお好きなんですか?
キカ:
『深い河』や、日本からバチカンへ渡る『侍』などが好きです。
最初は授業や図書館で見つけて、読み始めました。
--日本の数ある文学の中で、遠藤周作のどんなところに惹かれたのでしょう?
キカ:
遠藤周作は他の日本の作家とは少し違いますよね。
多くの日本人作家が神道や仏教的な背景を持っているのに対し、遠藤周作はキリスト教の背景を持っています。
そのキリスト教的な価値観の中で、人々が深く思い悩む姿を描き出しているところが、非常に興味深いと感じました。

現代の社会問題と文学の繋がりを探る
--キカさんは学士や修士の論文でも、非常に興味深いテーマに取り組まれていますよね。
キカ:
ええ。
学士課程の時は、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』を取り上げ、小説の中に反映されている日本の社会問題について論文を書きました。
文学と社会問題はどこか似ていて、文学の中に社会の姿が反射している部分に興味があります。
最近はハン・ガンさん(韓国のノーベル文学賞受賞作家)などの女性作家の作品もよく読んでいます。
--修士課程では、さらに踏み込んで、ジャーナリスト・伊藤詩織さんの性被害(『Black Box』)を題材にされたと伺いました。なぜそのテーマを選んだのですか?
キカ:
ジャカルタの書店で、彼女の著書『Black Box』の英語訳を見つけて読んだのがきっかけです。
すごく衝撃を受けました。
日本のような発展した国で、なぜこのようなこのような事件が起きてしまうのか、と。
修士論文では、この事件を他の性被害事件と比較しながら、警察や政府などの公権力がどのように事件を助長、あるいは隠蔽してしまうのかという社会構造にフォーカスしました。
--インドネシアでもそういった社会問題に関心が高まっているのでしょうか?
キカ:
そうですね。
インドネシアでも性被害の事件は多く、社会問題になっています。
興味深い、と言っては語弊があるかもしれませんが、警察の対応や法廷のプロセス、加害者が守られがちな構造など、インドネシアと日本で類似している部分が多いんです。
大学内で起きた事件が、大学側によって揉み消されてしまうといったケースもあります。
--非常に難しく、かつ重要なテーマですね。当事者ではない「男性」としてこの問題に向き合うことに葛藤はありましたか?
キカ:
ありますね。
当事者である女性ではない自分が、この問題をどう研究していくべきかというのは一番の悩みでした。
若者たちの日本へのまなざしと、日本での生活
--現在、インドネシアの大学で若い学生たちに日本語を教えていらっしゃいますが、現地の若者は日本のことをどう受け止めていると感じますか?
キカ:
ポップカルチャーの影響は相変わらず大きいですね。
私の学生たちも、アニメや音楽、最近だとVTuber(ホロライブなど)が大好きです。
また、日本を「魅力的な国」として捉え、特定技能やEPA(経済連携協定)制度を使って、介護などの仕事で日本へ働きに行く人も、とても多いですよ。
--今回、6ヶ月間の研修で来日されていますが、キカさんにとってはこれが初めての日本での長期滞在になるんですよね?
キカ:
はい。実は修士課程の時に、国際交流基金主催のワークショップに参加するため、1週間だけ日本に来たことはあるんです。
でも、その時は期間が短すぎて、ゆっくり楽しむ余裕がありませんでした。
なので、こんなに長く日本に住むのは今回が初めてです。
--初めて長く暮らしてみて、実際の日本の生活はどうですか?
キカ:
今回気づいたのは、私は自然よりも「街」が好きだということです(笑)。
街の便利さが気に入っています。
特に、吉野家や松屋などのチェーン店も好きですね。
インドネシアにも同じチェーン店はありますが、日本のものは少し味が違って、例えばお肉が少し甘くて美味しいです。
--キカさんはムスリムでいらっしゃるとのことですが、日本での食事で苦労することはありませんか?
キカ:
普段、研修センターの食堂ではハラルフードが出るので安心しています。
週末に外食するときは、日本はハラル対応の店が少ないので、自分の中で「豚肉とアルコールは必ず避ける」と決めて、神経質になりすぎない範囲で食事を楽しんでいます。
--日本社会で魅力的だと感じる部分はありますか?
キカ:
規律正しさですね。
例えば、映画館に行くと皆すごく静かに映画を観ています。
インドネシアだと上映中にスマホを見たり、隣の人と喋ったりする人も時々いるので。
あとは、夜がすごく静かなところ。
現在、私の住んでいる場所は電車の音だけが聞こえてくるような環境で、とても心地いいですね。
逆に大変なのは、少し物価が高いことでしょうか。
サイゼリヤまで値上がりすると聞きましたし、少し苦労しています(笑)。

「多文化共生」への視点
--日本でも「多文化共生」が大きなテーマになっていますが、キカさんの考える多文化共生社会とはどのような社会でしょうか?
キカ:
シンプルですが「お互いに尊重できる社会」だと思います。
日本国内でも、関東と関西、あるいは北海道で少しずつ文化が違いますよね。
その違いをみなさんが尊重しているのと同じように、海外からの文化の違いも尊重することができれば、難しいとは思いますが、共生は可能だと思います。
--インドネシアでの多文化共生はいかがですか?
キカ:
インドネシアは多くの民族と方言があるので、さらに難しい課題を抱えています。
「インドネシア語」という共通言語で国を一つにしていますが、民族間の問題はいまだにあります。
最近ではバリ島にロシアや欧米からの移住者が急増し、狭い地域に人が密集することで、問題が発生したりもしています。
お互いを尊重することの難しさは、どの国にも共通していますね。
小市民映画の魅力と「映画を作りたい」という夢
--最後に、キカさんの今後の目標やライフプランを教えてください!
キカ:
まずは、この6ヶ月の研修中に日本語能力試験(JLPT)のN2に合格すること。
そして、広島や北海道など日本各地を旅行してみたいですね。
将来の目標は、博士課程に進学して「日本文学・日本文化の専門家」になることです。
博士課程では、日本の大学に入りたいと思っています。
実は今、日本のクラシック映画の研究に興味があるんですよ。
--日本の昔の映画ですか!例えばどんな作品がお好きなんですか?
キカ:
小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の作品です。
特に小津監督の『秋刀魚の味』や『東京物語』が好きですね。
私は小津監督や成瀬監督が描く「小市民映画」が好きなんです。
昭和の時代の、普通の市民の生活や、家族のドラマ、夫婦の関係などを観るのが、現代の視点から見てもとても面白いんです。
--渋いですね!今回、日本にいる間にたくさん映画を観られそうですね!
キカ:
はい、週末には絶対に映画館に行きたいと思っています。
実は先週末だけで、映画を5本観たんですよ。
--5本も!どんな作品を観たんですか?
キカ:
是枝裕和監督の『ルックバック』や、フランス映画、それから田中絹代監督の『流転の王妃』などです。
今日も、岩井俊二監督の『Love Letter 4Kリマスター』が上映されていると聞き、観に行ってきました。
--すごい熱量ですね!映画に関連して、映画に関する本も読まれているとか?
キカ:
ええ。日本映画の知識を増やすために、今は想田和弘監督のドキュメンタリー映画についての本を英語で読んでいます。
『精神』などの代表作がある監督ですね。
監督の作品自体はまだ観られていないのですが……実は、将来的には自分でも映画を作ってみたいという気持ちもあります。
--文学から社会問題、そして日本映画の研究、さらにはご自身での映画制作まで! 最初にお話しいただいた遠藤周作も、マーティン・スコセッシ監督によって『沈黙』が映画化されていましたし、すべてがどこかで繋がっているのかもしれませんね。
キカ:
そうですね、いろいろな方向に関心が広がっていますが、博士課程に進学するには研究テーマが、修士論文と関連させる必要があります。
そのことも考えないといけませんが、まずは日本での6ヶ月間をしっかり堪能して、日本語を上達させた上で、自分の目標に向かって進んでいきたいと思っています。
--幅広い視点からの素晴らしいお話をありがとうございました。日本での生活と今後のご活躍を応援しています!

・国際交流基金
HP:https://www.jpf.go.jp/
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