
(劉子真さん)
今回インタビューさせていただいた劉子真さんは中国遼寧省の大連出身。
現在は日本に住みながら、テノール歌手として幅広い音楽活動をされている方です。
中国では、瀋陽音楽学院卒業し、「魯藝杯声楽コンクール」で銀賞受賞した後、第7回全国「中日歌曲コンクール」で金賞受賞したほか、遼寧春節特別番組などにも出演しました。
2015年に来日。
声楽研究生として東京芸術大学に在籍した後、洗足学園音楽大学で声楽修士課程修了しました。
大学院卒業後は、「華音—声之旅混声合唱団」で団長兼指揮者を務めているほか、「在日華人女性交流会合唱団」でも声楽指導兼指揮者を務めています。
カワイ社が出版する青少年向け音楽教材の中国語版の範唱を行うほか、「日本全華連カラオケ大会」や「文化中国水立方杯声楽コンクール」などの審査員も務めるなど、多方面で活躍。
作曲も行っており、「大美望江」、「深情的回忆」、「江城子」等の楽曲があります。
現在は、自身が団長兼指揮者を務める「華音—声之旅混声合唱団」の活動に最も力を入れているという劉さん。
日本と中国の音楽をめぐる環境の違いや今後の目標などについてお聞きしました。
−− 今日はよろしくお願いします!まず最初に簡単な自己紹介をお願いします!
私の名前は劉子真(リュウ・シシン)と申します。
故郷は中国遼寧省の大連です。
瀋陽音楽学院で4年間学び、学士号を取得しました。
日本に来てからは、日本の東京藝術大学で2年間、声楽の研究生として学びました。
その後、洗足学園音楽大学で2年間の修士課程を修了しました。

−−日本に来られたのは留学がきっかけですか?
それも理由の一つです。
実は、私の継父は中国残留孤児二世なんです。
彼らのような上の世代の方は日本に対して非常に深い思い入れがあります。
また、母も日本で7、8年生活した経験があります。
それで両親からも「世界を見に出て、外の世界を歩いて、日本の文化に触れるべきだ」と言われました。
学生時代も合わせると、来日してちょうど10年になります。
私の出身である大連は日本にとても近いです。
そのため、子供の頃から日本の文化の影響をたくさん受けていました。
アニメやテレビドラマ、それから日本の民謡など、子供の頃から自然と親しんでいました。
−−中国のポップスには日本の曲をカバーしたものも多いですよね。
そうなんです。
日本に来て初めて、多くの中国音楽の要素が日本から来ていることを知って驚きました。
ここまで多いとは知りませんでした。
−−ご家庭の事情、そしてご自身が音楽を専攻されていたことや日本のポップミュージックの影響もあって、最終的に日本に来ることを選ばれたんですね。
当初は、日本の音楽と中国の音楽を比較してみたいという好奇心がありました。
それに加えて、家庭の事情というきっかけもあって、自然な流れで日本について知りたいと思うようになりました。
私は日本に来るまで、他の国に行ったことがなかったので、もっと世界を知り、自分の経験を豊かにしたいという思いもありました。

−−劉さんは、中国国内で「魯藝杯声楽コンクール」という声楽コンクールで銀賞、「全国中日歌手コンクール」で金賞を受賞されていますよね!
大学2、3年生の頃から、いくつかのコンクールに参加し始め、それからは時々、巡回公演にも出ていました。
大学卒業後は、大連の「全国総工会心連心芸術団」等で、声楽家として活動しました。
そうする内に、海外に出て世界を見てみたいという思いが湧いてきたんです。
−−国内で数々の受賞歴があり、経験や人脈もあったと思います。それを手放して日本に来ることに、もったいなさは感じませんでしたか?
かなり大きな挑戦でした。
人間は限られた時間の中で、より多くの見聞や経験を積むべきだと考えています。
そうすることで人生は豊かになります。
一つの場所で旧来のやり方を守るのも、安定しているかもしれませんが、長い目で見れば、それは価値あることではないと思います。
新しい世界は新鮮ですし、より多くのことを学べますから。
−−ぜひ中国国内で参加したコンクールの思い出等も教えてください!
「中日歌曲コンクール」は、中国人が日本の歌を、日本人が中国の歌を歌うという大会です。
これは大連でずっと開催されている全国規模のコンクールです。
私たちは4人で参加し、谷村新司さんの「昴」を編曲して歌いました。
当時私たち4人は日本語が全く話せなかったので、日本で長年ビジネスをしている友人にお願いして、歌詞に一つ一つフリガナを振ってもらったんです。
私たちは中国語で読み方をメモして、それを暗記して歌いました。
「昴」は中国でも非常に有名な曲なので、審査員からは「この曲は歌う人が多い。なぜ君たちはまた歌うんだ?」と聞かれました。
それに対して、私たちは「編曲して四重唱にしました。聴いてみてください」と審査員に伝え、歌いました。
その結果、金賞を受賞することができました。
私たちは曲にハーモニーをつけ、メロディも豊かに編曲したんです。

−− 「華音−声之旅混声合唱団」でも「昴」を歌われていますよね!
今は、四重唱のバージョンを少し修正して、3声部にしました。
以前は4声部でしたが、現在合唱団は、男性が比較的少ないので、男性のパートを一つ減らしたんです。
ぜひ、もっと多くの男性に合唱団に参加してほしいと願っています。

(合唱団の練習の様子)
−−日本で音楽活動する中で、中国と日本で音楽活動をすることの違いは何か感じますか?
それは音楽の雰囲気と、歴史の積み重ねの違いですね。
中国でも音楽は非常に盛んですが、お金を払って音楽を鑑賞し、理解しようとする人は、日本ほど多くありません。
この文化的な蓄積は、日本の方が中国よりずっと早く、長い歴史があります。
日本人の価値観では、声楽や音楽はとても神聖なもの、心身を養うものと捉えられています。
日本人は心身を養うものとして、音楽をお金を払って鑑賞したり、学んだりすることに意欲的だと思います。
とはいえ、中国でも北京、上海、瀋陽といった大都市では、価値観が少し異なり、お金を払ってコンサートに行く人も多いです。
ただ、大連では、そういった人は比較的少ないです。
−−大連は中国の東北地方の中でもかなり進んでいる方だと思いますが。
200元、300元、日本円で3、4千円を払ってコンサートに行くとなると、まだ多くの人は、そこまでお金を払うという消費観念に至っていないと思います。
まだまだ成長途中ということですね。

−−ご自身が日本で生活する上で、何か困難に感じたことや、中国と違うと感じたことはありますか?特に音楽家としてのご意見をお伺いしたいです。
音楽面を比較すると、日本の大学院は、私が中国で想像していたのとは全く違いました。
日本の修士課程の大学院生が学ぶ内容は、その細かさや厳しさが、大学よりもさらに厳しいんです。
これは来日前には想像していませんでした。
そして、日常的に音楽活動する中で、直面しているのは、宣伝の問題です。
日本に住む中国人は少なくありませんが、この種の情報を知っている人は、まだ少ないです。
もともと歌うことが好きな人が少なく、その中で合唱が好きな人となると、さらに少なく、男性となると、もっと少ないです。
なので、今やるべきことは宣伝で、非常に大きな努力が必要だと感じています。
−−より多くの在日中国人に音楽、合唱について知ってもらいたいという思いがあるのですね。
そうです。音楽の才能がある人は多いのですが、皆さん仕事や学業で忙しく、関連する情報に気づいていないと思います。

−−ちなみに今の合唱団のメンバーは、どういう構成ですか?
ほとんどが在日中国人で、日本人は2、3人です。
彼らは基本的に中国語が話せて、中国文化が好きです。
中国人配偶者がいる方もいますし、夫婦で参加されている方も何組かいます。
ちなみに、私たちの合唱団の最高齢は84歳です。
しかし、身体はとても元気で、全くそうは見えません。私が旅行を企画した時はハイヒールを履いて山登りしていました。
他にも80歳以上の方が、男女合わせて3、4人いますが、見た目は全くそう見えません。
音楽が彼らにもたらした、潜在的な良い影響ですね。
また、私たちの合唱団には、かつての中国残留孤児、その二世、三世もたくさんいます。彼らは日本にいながら、中国に対して非常に強い思慕の情を抱いています。
誰よりも日中友好を願っている人たちなんです。そのために様々な形で努力をしています。
私たちが一番恐れているのは、日中の間に対立が生まれることです。
ですから、少しでも自分たちにできることがあれば、その方向に向かって努力していきたいと思っています。
合唱団では、中国人が多いので、私の指導は中国語ですが、もし日本人で中国語が分かり、中国人文化が好きだという方がいれば、大歓迎です。
将来的には、日本人がもっと増えて、中国文化に触れてもらうというのも、一つの目標ですね。

−−たしかに、私も同じ在日中国人として、何か文化活動の団体があれば参加したいと思っていますが、普通に生活していても、なかなか見つからないんですよね。
なかなかありませんよね。
ぜひ合唱団に参加してください。
−−ぜひ今後の目標についてもお聞きしたいです。音楽活動についてでも、個人的なことでも構いません!
現在、私の労力の半分以上は「「華音—声之旅混声合唱団」に注いでいます。
ぜひ、この合唱団の規模を拡大し、知名度を上げていきたいと思っています。
より多くの在日中国人に、趣味として音楽を楽しむ、日常の音楽活動を生活の一部とする、そういった場を提供したいんです。
そして、人が増えれば、より良い合唱団員を募集することもできます。
私の目標は、東京において、在日中国人の音楽水準、合唱水準が最も高いチームを作ることです。
そのためには、まず人に知ってもらう必要があります。
−−メンバーは最初から音楽の専門家でなくても、良い人材に育てていくということですね!
そうです。
というのも、多くの人は素質は悪くないんです。
音楽のセンス、リズム感、メロディー感、音程、そういったものはほとんどが生まれ持ったもので、遺伝子的なものです。
なので、少し調整すれば、将来的に大きな力を発揮する可能性があります。

−−金の卵は必ず光ると。
必ず光ります。
だから、歌ったことがないからといって、自分とは縁遠い世界だと思わないでほしいです。
実はそんなに難しくないんです。入門はかなり簡単ですよ。
それに、たくさんの仲間と一緒に歌うので、恥ずかしく思う必要も、孤独を感じることもありません。
私たちは普段、食事会や旅行なども企画していて、それらは団結力を高めるための取り組みの一つです。
−−劉さんが提供しているのは、単に合唱のための団体というだけでなく、在日中国人のための日常的な文化活動の場、一つの居場所なのですね。
そうです。

−−それは非常に意義のあることですね。
私たちは日本の歌や中国の歌だけでなく、海外の歌も歌います。
文化は世界共通のもので、いわゆる「音楽に国境はない」ということです。
私たちは日本の地域の文化活動にもよく参加しますし、両国の国民がより良い交流ができるようになればよいと思っています。
より良い交流ができれば、お互いに良い印象を残すことができますから。
−−最後に読者の方にメッセージをいただければ!
私はテノールの練習者、そしてパフォーマーとして、テノールという声部に対して、子供の頃からずっと、ある種の優越感のようなものを抱いてきました。
私は6歳からピアノを始め、音程やリズム、そして音楽への感受性は、比較的自然に身についていました。
音楽に子供の頃から慣れ親しんでいたんです。
その後、音楽学院での経験を経て、より体系的な理論、テノールにはどのような種類があるのか、そして自分の個人的な条件に合うのはどのような歌なのか、といったことを理解しました。
私が生徒を育てる際は、自分が経験してきたこと、あるいは経験してこなかったことを彼らに伝え、彼らが遠回りをしないようにしています。
大学院進学を目指す生徒も何人か指導し、皆良い結果を出しています。
もし中国からの留学生で、日本の文化や音楽に触れてみたいという方がいらっしゃれば、ぜひ私にご連絡ください。
皆さんのお力になれると思います。

(合唱団の皆さんと)
(取材・文/劉聰/在日中国人ライター)
【HYAKUYOU編集部】
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