SNS総フォロワー8万人──「日中夫婦 健&茜」さん
「日本のメディアでは見られない”等身大の中国”を届ける理由」

2025.10.06
(左:宋子健さん、右:稲垣茜さん)


「日中夫婦 健&茜」として、飾らない中国の日常や文化を発信し、人気を集めている宋子健(以下、健さん)さん稲垣茜さん(以下、茜さん)
笑顔が絶えないお二人の動画は、多くの視聴者に日中間の新たな視点を提供しています。

二人が運営するメディア「日中夫婦 健&茜」は、SNS総フォロワー数8万人、動画の累計再生回数は5000万回を突破するなど、多くの注目を集めています。

お二人のメディアでは、中国のリアルな食文化や農村の風景、家族との心温まる交流など、日本のメディアではあまり報じられないありのままの中国の姿を見ることができます。

アニメがきっかけで日本語を学び、日本の大学へ留学した経験を持つ健さん。
一方、大学ではドイツ語を専攻し、亡き祖父の影響で中国に興味を持ったという茜さん。
そんな二人が、日常生活や健さんの故郷への帰省Vlogを通して、等身大の中国の魅力を伝えています。

彼らの発信する情報には、「中国のイメージが変わった」「実際に訪れてみたくなった」といった視聴者からの好意的な声も多く寄せられています。
あくまで民間レベルの文化や日常に焦点を当てることで、多くの人が抱く中国への先入観を少しずつ溶かしていく。そんな彼らの活動は、国籍を超えた相互理解の架け橋となっています。

今回は、そんなお二人の出会いのきっかけから、YouTubeでの情報発信における信念、そして日中夫婦として考える「多文化共生」の未来について、深くお話を伺いました。



きっかけはマッチングアプリ。ドイツ語専攻の茜さんが健さんと出会うまで

−−本日はありがとうございます。動画を拝見していても、お二人の笑顔がとても素敵で、見ているこちらも幸せな気持ちになります。まずは、自己紹介とこれまでの経歴についてお聞かせいただけますか?

健さん: 健です。安徽省出身で、中国の天津師範大学で日本語を専攻していました。その後、交換留学で日本の三重大学に来て、卒業後は東京で就職しました。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)


−− 日本語を専攻されたきっかけは何だったのですか?

健さん:交換留学のプログラムで選べる授業が限られていて、理系が苦手だったので、文系の日本語教育しか選択肢がなかったんです。
でも、もともとアニメの影響で日本に来たいという気持ちは強くありました。
日本語を勉強していたので、日本で仕事がしたいという思いと、少し内向的な性格を変えたいという気持ちもありましたね。

茜さん:私は茜です。大学では中国語とは全く関係なく、大阪大学でドイツ語を専攻していました。


−−ドイツ語も話せるのですね!

茜さん:はい、少しだけ(笑)。「Ich spreche Deutsch, aber ich habe alles vergessen.(ドイツ語を話しますが、全部忘れてしまいました)」というレベルですが、旅行くらいなら大丈夫です。実は、ドイツ語の「ü」の発音と中国語の発音が少し似ているんですよ。

健さん:普通の日本人の方はあまり得意ではない発音ですよね。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)


−−茜さんが中国に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

茜さん:亡くなった祖父の影響です。
祖父は漢方薬の博士号を持つほどの中国好きで、何度も中国を訪れていたそうなのですが、当時は私自身、全く興味がありませんでした。
祖父の死後、遺品のノートに上海での出来事や少数民族の娘さんと喧嘩した話など、面白い旅行の記録がたくさん書かれているのを見つけたんです。
それで急に中国という国に興味が湧いて、翌月には旅行に行きました。
実際に訪れると人々は優しく、ヨーロッパとは違う魅力に惹かれ、趣味で少しずつ勉強を始めました。それが2020年頃のことです。


−−そこから、お二人の出会いに繋がるのですね。

茜さん:はい。その後、東京への転職などで勉強は中断していたのですが、マッチングアプリのプロフィールに「中国語を少しかじっています」、「ドイツ語もできます」と書いたんです。そうしたら彼(健)から「いいね」が来て。

健さん:正直に言うと、日本語の練習目的ではなく、彼女が欲しかっただけです(笑)

茜さん:私も彼氏募集で使っていました(笑)。
特に中国語が話せる人を探していたわけではなく、色々な趣味を書けば多くの人と繋がれるかなと思って。
海外の人とデートした経験もなかったのですが、たまたま一番良い感じだったのが中国人だった、という感じです。


−−実際に会うまでのやり取りはスムーズでしたか?

茜さん:最初にアプリ上で電話をしたのですが、彼が敬語を使わないので少し驚きました。
でも、外国人だから仕方ないか、と思って実際に会うことにしました。
最初のメッセージは中国語でしたが、その後のやり取りや電話はほとんど日本語でしたね。

健さん:当時、二人とも東京に住んでいたので、会うのはスムーズでした。3回目に会った時に告白して、付き合い始めました。
最初のデートは池袋の火鍋屋です。
実は僕、辛いものが食べられないんですけどね(笑)


−−中華料理好きなのに辛いものが苦手なのは珍しいですね!

健さん:よく言われます(笑)。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)



狙うのはバズりじゃない。リアルな中国を伝えるための試行錯誤

−−お二人がYouTubeで「日中夫婦」として情報発信を始めようと思ったきっかけは何だったのですか?

茜さん:もともと私が副業でWebライターをしていて、個人のブログも書いていました。
最初は転職者向けのブログだったのですが、だんだんネタが尽きてきて…。
その頃、彼と付き合っていたので、「中国人彼氏あるある」のような記事を書いてみたら、すごく反響があったんです。
発信することは好きだったので、このネタを動画でやってみよう、ということになりました。

健さん:ブログより動画の方が簡単だと思ったんです。実際はそんなことなかったですが(笑)。
二人とも動画編集は全くの未経験で、やりながら学んでいきました。


−−最初に「伸びた」と感じた動画は何でしたか?

健さん:「中国人男性が好きなタイプ」という動画ですね。


−−日本人女性は、そういったテーマに興味があるんですね。

茜さん:意外とあるんです。日中カップルは増えていますし、中国語を学んでいる女性や、職場に気になる中国人男性がいる女性は興味があると思います。

健さん:昔は日本人男性と中国人女性のカップルが多かったですが、今は逆転していますね。中国の経済発展も大きな理由の一つだと思っています。


−−動画作りで参考にされた方はいますか?

健さん:ドキュメンタリー監督の竹内亮さんの動画は好きでよく見ています。ただ、彼の動画は中国人向けなので、私たちはリアルな中国の姿を、日本人向けに伝えたいという想いがありました。

茜さん:リアルな姿を伝えるという点は受け継ぎつつ、それを日本人向けに、特に中国語を学ぶ人のために伝えたいと思っています。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)


−−日本のメディアでは、中国に関するネガティブな報道も少なくありませんよね。

健さん:そうですね。日本のメディアで伝えられている内容は、あくまで一部だということを伝えたいです。

茜さん:だからこそ、どちらか一方に偏らないように気をつけています。
中国で伸びている動画は中国を絶賛するもの、日本で伸びている動画は少し中国を悪く言うものが多い傾向にあるので。

健さん:両方で使える動画も試しましたが限界がありました。
今は少し日本人寄りの内容になっていますが、それは日本のユーザーが面白いと思う内容、例えば中国人が日本に来てどう感じたかなどを発信しているだけで、どちらかの国をことさらに褒めたり、悪く言ったりはしません。真実を伝えているだけです。


−−発信する上で「これはやらない」と決めていることはありますか?

茜さん:以前、抗日ドラマの曲をトランペットでふざけて吹いた動画が500万回再生されたことがありました。でも、このやり方は簡単だけど、私たちの目指す方向性とは違うと思い、封印しました。

健さん:政治的な内容は、伸びやすいとは思いますが、触れたくないです。
あくまで文化や日常といった、民間レベルの交流に留めたい。
中国のTikTokでは、愛国的な感情を煽るような動画は拡散されやすいのですが、周恩来のような国の要人の名前を安易に使うと、逆にシャドウバン(表示制限)されることもあります。
その辺りはとてもデリケートで難しいですね。



ありのままの中国を届けるコンテンツ制作の裏側

−−動画のネタはどのように見つけているのですか?

茜さん:日常生活の中から見つけることが多いです。あとは、他のクリエイターさんが扱っていて再生数が伸びている、あまりデリケートではない話題を取り入れたり。最近では「鬼滅の刃」の感想を中国人の視点から話す企画が好評で、流行に乗ることもあります。


−−メインはVlogとのことですが、撮影は中国に帰国されたタイミングですか?

健さん:はい、年に2回ほど帰国するのですが、1回の滞在で30本くらいの動画をまとめて撮影します。


−−最近、日本人の中では、「中国は危険だ」という声も聞かれますが、現地で日本語を使って撮影していて、危険や不便を感じたことはありますか?

茜さん:全くありません。

健さん:一度もありませんね。むしろ、動画を撮っていると「すごいね」と皆さんが喜んで協力的な表情を見せてくれます。日本人だと分かっても特に抵抗はないようです。

茜さん:撮影許可などに厳しい日本の方が大変かもしれません。嫌な思いをしたことは一度もありません。

健さん:中国ではTikTokerのような動画配信者が多いこともあり、撮影していても周りの人々はあまり気にしません。
プライバシーに厳しく、顔を映されることに抵抗がある人が多い日本よりも、むしろ撮影しやすい環境だと感じます。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)


−−中国の動画では、特に農村の風景を多く撮られていますよね。

茜さん:はい。主に「食」をテーマに、私たちが食事をしている様子や、農村の風景、そして実家での家族との温かい関わりなどを撮影しています。都会の先進的な側面を見せるよりも、田舎の温かさを伝える方がコンテンツとして伸びる傾向がある、というのも理由の一つです。

健さん:上海や北京の映像は、多くの日本人がすでに知っていますからね。
農村を訪れることで、「これが中国なんだ」という新しい発見を提供できます。僕が農村出身だったからこそ、よりディープな中国を伝えられていると思います。



アンチコメントは「心が動いた証」。発信者としての喜びと困難

−−中国に関する情報を発信する中で、良かったと感じる点は何ですか?

茜さん:もともと中国に良い印象を持っていなかった視聴者の方から、「動画を見て、健さんやご両親の優しさに触れ、中国に行ってみたくなりました」というコメントをいただく時が一番嬉しいです。
批判的な視点で見ていた方が、動画を通じて中国を好きになってくれる。その変化が何よりの喜びです。

健さん:「想像していたイメージと全く違った」と言われることも多いですね。
アンチコメントも来ますが、全くコメントがないよりは、人の心を動かせたということなので良いと考えています。むしろ、アンチの方にも来てほしいくらいです(笑)

茜さん:あまりにひどいものは削除しますが、基本的には「コメントありがとうございます」と返信するようにしています。
そうした方々が動画を見続けてくれるうちに、考えが変わっていくこともあるんです。


−−逆に、困難に感じることはありますか?

茜さん:そういった嫌なコメントによる精神的なダメージは多少あります。でも、二人で支え合っているので大丈夫です。

健さん:僕が困難だと感じるのは、日本に住んでいるため、中国の最新情報をリアルタイムで撮影できないことです。
今は過去に撮りためた映像(在庫)を使っているので、「季節感がおかしい」と指摘されることもあります。もし中国に住んでいれば、もっとチャンネルは伸びていたと思います。


−−視聴者からの反響で、他に印象的なものはありますか?

茜さん:東京のガチ中華の店や、中華物産店を紹介する動画は人気があります。
「気になっていたけど入る勇気がなかった。動画を見て様子が分かったので今度行ってみます」というコメントをたくさんいただきます。
私たちの動画が、中国の文化に触れる一歩を踏み出すきっかけになっているとしたら、とても嬉しいです。



日中夫婦が考える「多文化共生」と、そのために必要なこと

−−当メディアのテーマでもある「共生」についてもお伺いします。お二人にとって「多文化共生」とはどのようなものでしょうか?

健さん:日本は少し内にこもりがちで、「日本だけで良い」と考えている人が多いように感じます。
先日、日本人の半数以上がパスポートを持っていないというニュースを見ました。
異文化に接すれば必ず衝突は起こりますが、そこで拒絶するのではなく、まずはお互いの良い点を探し、共通点を見つけて共存していく道を探ることが重要だと思います。

茜さん:一部の人を見て「中国人」というレッテルを貼り、きちんと行動している他の多くの人々まで同じように見てしまう傾向があるのかもしれません。
私も以前は中国に全く興味がありませんでしたが、実際に訪れてみて考えが大きく変わりました。何も知らずにイメージだけで判断するのは悲しいことです。


−− 日中夫婦として、仲良く生活するために大切にしていることはありますか?

茜さん:お互いを理解し合い、自分の価値観を押し付けないことです。

健さん:日本はまだ共生が進んでいるとは言えないかもしれません。「外国人」と一括りにしてしまう風潮があります。共生を実現するためには、ある程度の自由度が必要だと思います。
「日本のルールを守れ」と一方的に言うだけでなく、海外から来た人々のために、お互いが50%ずつ譲歩し、妥協点を見つける姿勢が大切ではないでしょうか。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)



目指すは日中夫婦の「ハブ」。二人が描く未来

−−今後のメディアとしてのお二人の目標、そして夫婦としての目標を教えてください!

茜さん:今は穏やかな形で中国の情報を伝えていますが、今後はインタビューなどを通じて、より公的で信頼されるメディアを目指していきたいです。
そして個人的には、日中夫婦の方々が「ここに来れば繋がれる」と思えるような、コミュニティのハブになりたいです。同じ境遇の方が情報交換できる場を提供したいと考えています。

健さん:単なる人気インフルエンサーになるのではなく、正しい情報を伝えたい。朝日新聞のような大手メディアが報じないような情報も、政治に触れない範囲で発信していきたいです。
また、日本人にとって恋愛や結婚の相手として中国人はまだメジャーではないかもしれませんが、これから私たちがそのイメージを変えていく必要がありますね。


−−最後に、お二人のチャンネルを見ていらっしゃる日本の視聴者の皆さんへメッセージをお願いします!

茜さん:中国の人々は、実際に話してみると非常に優しいことが多いです。あまり怖がらずに、心を開いて接してみてください。
私自身、たった5日間の旅行で中国が好きになったくらいですから、先入観を捨てて一度訪れてみることをお勧めします。

健さん:「中国人だからこうだ」と国籍で一括りにせず、一人ひとりの個人として見てほしいです。どの国にも良い人もいれば、そうでない人もいます。
私の妻が日本人だから好きになったのではなく、彼女という個人を好きになったら、たまたま日本人だっただけです。国籍を一旦忘れて、その人自身と向き合うことが大切だと思います。

(「日中夫婦 健&茜」さん提供。Naoki Hatsudaさん撮影)



・「日中夫婦 健&茜」

Youtube:https://www.youtube.com/@zijianakane34

instagram:https://www.instagram.com/zijianakane34/

ブログ:https://mabomabo.com/

TikTok:https://www.tiktok.com/@zijianakane34?lang=ja-JP




(取材・文/劉聰/在日中国人ライター)

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