
日本の安全保障と社会のあり方を問うシンポジウム「日本を変える!政治を変える!大討論2026」(主催:同実行委員会)が1月24日、東京・一ツ橋の日本教育会館で開催された。
高市早苗政権下での解散総選挙という緊迫した政治情勢を受け、会場には市民、労働組合関係者、学生など幅広い層が集結。
元内閣総理大臣から現役の大学院生、労働組合のリーダーまで多彩な登壇者が、「アジアの平和」と「国内の生活保障」という二つの側面から、日本社会が目指すべき「共生」の形について議論を交わした。
「力による平和」か、「対話による共生」か
討論の口火を切ったのは、元内閣総理大臣の鳩山由紀夫氏だ。鳩山氏は、昨今の台湾情勢をめぐる政府の強硬な姿勢に対し、1972年の日中共同声明の精神に立ち返る重要性を強調。「無限責任」という言葉を引き合いに、過去の歴史への誠実な向き合い方こそが、アジア諸国との信頼醸成、ひいては真の安全保障につながると訴えた。
また、「新外交イニシアティブ」代表の猿田佐世氏は、現在の国際情勢を「弱肉強食の世界」と表現した上で、日本が進むべき道として「力によらない平和」を提唱した。
猿田氏は、政府間の外交(トラック1)だけでなく、市民や専門家による「トラック2・トラック3」外交の重要性を指摘。「たとえ国家間の関係が冷え込んでも、経済や文化、市民レベルでの『相互依存』を深めることこそが、戦争を防ぐ安全装置になる」と述べ、信頼醸成のための具体的な制度化を求めた。
ビデオメッセージを寄せた沖縄県選出の参議院議員・伊波洋一氏も、南西諸島における軍事力強化の現状に触れ、「台湾有事」を前提とした議論への危惧を表明。
沖縄が再び戦場となることを防ぐためにも、対話による平和外交の徹底を求めた。


経済格差と労働現場における「共生」の課題
視点を国内の生活に向けたのは、ものづくり産業労働組合JAM会長の安河内賢弘氏だ。
安河内氏は、物価高騰が続く中で、中小企業の賃上げが大企業に追いついていない現状(格差)をデータで提示。
「中小企業は生産性が低いのではなく、適切な価格転嫁ができていないことが問題だ」とし、ドイツのように価格転嫁と賃金格差是正が進んだ社会モデルを目指すべきだと主張した。
また、外国人労働者との共生についても言及があり、会場からはフィリピン人移住労働者の参加者が発言。
「私たちは日本社会を支える仲間であり、他人ではない」と訴え、特定の人々を排除するような政策ではなく、人間の尊厳に基づいた共生社会の実現を求めた。
次世代が直面する「構造的暴力」への問い
本討論会で注目を集めたのが学生・若者世代からの切実な発言だ。
お茶の水女子大学大学院生の唐井梓さんは、学費の高騰や研究者の不安定な雇用環境、ジェンダー不平等といった問題が、若者の未来を閉ざしていると指摘。「生活の余裕を奪われ、考える力を削がれる構造的な問題がある」とし、教育への公的投資の重要性を訴えた。
東京大学学生の金澤伶さんも登壇し、「政治的無関心」と言われる若者層が置かれている過酷な現状を解説。
SNSを通じた排外主義的な言説の拡散や、情報へのアクセス格差に警鐘を鳴らし、「異なる他者」を理解し尊重する土壌を教育現場から作り直す必要性を語った。
総選挙、そして未来へ向けて
登壇した羽場久美子氏(青山学院大学名誉教授)は、ウクライナやガザ、そしてベネズエラなど世界各地で紛争が続く中、グローバルサウスの台頭など世界秩序が大きく変化していることを解説。
「アメリカ一辺倒ではなく、近隣諸国や世界市民との連帯によって新しい社会を構築すべきだ」と総括した。
会の締めくくりには、実行委員長の大谷篤史氏が登壇。
「分断が進む社会の中で、いかにして平和と共生を目指す運動を広げていくか。本日の問題提起を受け止め、それぞれの現場で実践していこう」と呼びかけ、4時間半に及ぶ討論は幕を閉じた。
来たる総選挙は、安全保障政策の転換点となるだけでなく、国内における「格差」や「分断」をどう乗り越え、多文化・多世代が共生できる社会をどう築くかが問われる選挙となりそうだ。
取材では、登壇者や参加者に対するインタビューも実施。イベントに対する感想や今後に向けた思いなどを語ってもらった。
ものづくり産業労働組合JAM会長・安河内賢弘氏インタビュー

−−本日はお疲れさまでした。ぜひ今回の討論会のご感想を聞かせてください。
今日はJAMの代表というよりは、個人的な意思でここに参加させてもらっているんですけど、平和について、とりわけ日中関係の問題について、こうした議論ができたという点で本当に有意義な場だったと思います。
−−安河内会長の考えるアジアの平和と共生に向けたこれからの取り組みについて一言いただければと思います。
日本と韓国と中国と台湾、3カ国1地域の学識者が集まって、これからの東アジアの平和について話し合うフォーラムをやっているんですが、それが今は途切れてるので、なんとか復活させないといけないと思っています。
私たちは台湾の労働組合とも付き合いあるんですが、台湾の労働組合も中国の労働組合も平和を望んでいます。
そんな中で、日本がその関係をかき回してしまっていることについては、本当に申し訳ない気持ちです。
一緒に働く仲間はやっぱり平和を望んでいます。平和でないと我々も働けないので。
そういったことを東アジアの仲間と共に伝えていければと考えています。
−−労働者、労働組合からの目線から見ても、対話や友好的な関係が必要ですよね。
そうだと思います。
やっぱり対話からしか平和は生まれないので。一緒に話をして、一緒にお酒を飲んで、そんな関係の先に平和があると思います。
青山学院大学名誉教授・羽場久美子氏インタビュー

−− 本日はお疲れさまでした。討論会についてご感想を聞かせてください。
大成功だったと思います。
たくさんの方に来ていただきましたし、特に唐井さん、金澤さん、この二人の若者たちがとても積極的に発言してくれたこと、会場の皆さんも積極的に発言をしてくださったことがとても良かったです。
特にフィリピンの方や障がい者の方からの意見が挙がったことも、この集会の質を上げたと思います。
そういった方々の意見や発言を今後に活かしていけたらいいですね、
私は中国との交流も、それから沖縄や広島、長崎との交流というのも非常に力を入れています。
昨年沖縄で開催したシンポジウムでは、沖縄・広島・長崎の若者たちが集まってくれたほか、中国の若者も一緒に参加してくれました。このシンポジウムは駐日中国大使館や駐日韓国大使館の方からも評価していただいてます。
−−それこそ共生の場ですね。
そうですね、本当に良いシンポジウムでした。
今回は沖縄で開催したんですが、長崎の若者が、「これを沖縄だけで開催すると、閉じられた空間になるので、次は長崎や広島でもやろう」と提案してくれたんですね。
ですから、今年(2026年)は長崎で開催する予定で、沖縄、長崎、広島、それから中国、韓国の若者たちも集まって議論することになっています。
−−素晴らしいですね!ぜひ誘ってください。参加したいです!
ぜひ来てください。
本日、私はベネズエラやグリーンランドの話もしましたが、現在成長しているBRICS, G77などグローバルサウスの国々とも、ぜひ日本の市民や若者たちが一緒になって交流していけると良いと思います。
今日は、会場の参加者と登壇者たちが交流できたことも非常にプラスになりましたし、最後に凌星光先生(福井県立大学名誉教授)が、日中関係をさらに発展させていくための5ポイントを発言していただいたことも、本当に力になりました。
これを中心に、今後、日本と中国、日本と韓国、あるいはフィリピンの若者たちも一緒になって、新しい日本社会を作っていけたらいいなと思っております。
一緒に頑張りましょう。
「新外交イニシアティブ」代表・猿田佐世氏インタビュー

−− 本日はお疲れさまでした。ぜひ討論会についてご感想を聞かせてください。
多くの方が中国を含む日本の周辺諸国と仲良くして、平和を作っていきたいという思いに溢れていることを実感できました。
そのことに、すごく元気もいただきましたし、これから頑張っていかなければならないという思いも新たにできたので、とてもいい機会だったと思います。
−−猿田代表は今後のアジアの平和と共生のためには何が必要だと思いますか?
本当のことを言えば、政府のトップの機関から、「共生は大事」、「他国と仲良くすることが一番大事なことだ」というメッセージを発信していただきたいんです。
しかし、残念ながらトップからそういった発信がない場合には、発信できるそれぞれの人たちが、それぞれの立場で声を発していくことが、その代替手段になります。
最終的にはそれが総理大臣を動かすことになると思うので、みんなでやっていかなければならないと思います。
参加者の声──福岡市議会議員・森あやこさん
−−本日、討論会に参加されていかがでしたか?
若い人たちの発言に本当に感動し、感心しました。
私は大人として、次世代に平和な社会を渡すのが責任だと思っています。
これは政治の責任でもあり、役割でもあります。現状については、本当に申し訳ないという思いしかありません。
しかし、命のある限り、これはやるしかないと思っています。
皆さんが、大事な視点をたくさん発言してくれました。それを実践していく、一人一人がそうならないとダメだと思いながら、いつも私も街頭で喋っています。
どんな小さな子供でも消費税を払っています。その点で国に対する出資者でもあるわけです。
しかし、18歳以下には選挙権がない。だからこそ、選挙権がない人のために、選挙権を持っている人が権利を捨てることなく、ちゃんと考えてほしいと思います。
−−−
登壇者や参加者の言葉から浮かび上がったのは、「共生」は理念やスローガンではなく、現場での対話と実践の積み重ねによってしか形にならない、という現実だった。
国家間の緊張が高まる今だからこそ、市民、労働者、若者、そして地域から声を上げ、分断に抗う回路をつくり続けることが求められている。
来たる総選挙は、単なる政権選択にとどまらず、日本がアジアと、そして社会の中の多様な人びとと、どのような関係を築いていくのかを問う重要な分岐点となる。
対話と連帯を軸にした「共生」の選択肢を、私たちは本当に選び取れるのか。
その問いは、すでに一人ひとりの足元に突きつけられていると感じた。

(取材・文/劉聰/在日中国人ライター)