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傷ついた人が希望を持てる場所を。社会運動での挫折から「公認心理師」、そして「コミュニティ作り」⁠へ──伊礼悠花さんの挑戦

(伊礼悠花さん)

障害者の重度訪問介護ヘルパーとして働きながら、現在は国家資格である「公認心理師」の取得に向けて準備を進めている伊礼悠花さん。

かつて積極的に社会運動へ参加していた彼女は、活動の中でうつ病を患い、「社会の病理」を個人の問題として片付けられてしまう現状に直面しました。

同時に、運動の現場に流れ着く孤立した人々や、自身の「マジョリティ」という特権性への葛藤から、根本的なメンタルヘルスケアの必要性を痛感したと言います。

本記事では、社会運動を通して見えた課題をはじめ、複雑な思いを抱えていた「沖縄」という自身のルーツといかに向き合い、視野を広げていったのか、その率直な思いをお聞きしました。

「土に触れることで心が癒やされた」という実体験から、将来は傷ついた人々が希望を持てる「農業中心のコミュニティ」を作りたいと語る伊礼さん。

自らの痛みを乗り越え、他者をケアし、社会と結び直していく道を歩み始めた彼女の原動力に迫ります。

社会運動の中で見えた課題と「公認心理師」への道

--本日はよろしくお願いします。まずは現在の活動やお仕事について教えてください!

伊礼悠花さん(以下、伊礼):
よろしくお願いします。

私は、今は障害者介助のヘルパーとして、重度訪問介護の仕事をしています。

以前は、デモなど直接民主主義的な活動にも参加していましたが、今は仕事が忙しく、参加していません。

とはいえ、選挙のタイミングなどで動けるように、今は仕事をしながら力を蓄えている時期です。

将来的には農業を中心にしたコミュニティ作りを行いたいと考えているほか、現在は「公認心理師」を目指そうと考えています。

国家資格なので大学院まで行く必要があり、最低4年はかかるので一度は諦めかけたのですが、やはりその道を諦めきれず、来年からは通信制の大学に通って心理学を学ぼうと思っています。

--社会人からのチャレンジ、素晴らしいですね。なぜ公認心理師を目指そうと思ったのでしょうか?

伊礼:
一番の理由は、自分が社会運動をやる中でうつ病を患ってしまったことです。

その時、一番受けたかった治療が公認心理師によるカウンセリング(認知行動療法)だったのですが、公費負担の対象外で非常に高額でした。

また、社会運動の現場には、社会から孤立し、家庭環境などで居場所がなく流れ着いてきた人がたくさんいます。

そういう方々と接する中で、まずは運動に還元するよりも、自分自身のメンタルヘルスと向き合った方がいいのではないかと強く感じるようになったんです。

私自身も、そうした方々の人間関係を仲裁したり、「自分がマジョリティ側だという特権性を持っているゆえに、全ての時間を運動に費やさなければならない」という強迫観念に囚われてしまい、大学やサークル、夜勤をひたすら往復する生活の中で、ある日突然ベッドから起き上がれなくなってしまいました。

その後、精神科に行ったとき、当時は「私個人の問題ではなく、社会の仕組みに病理があるから私は苦しいんです」と訴えました。

私をうつ病だと診断して薬を処方するのは簡単だけど、それでは根本的な解決にならない、と。

でも、医師には「典型的なうつ症状ですね」と言われ、抗うつ剤と睡眠薬を処方されるだけでした。

医師の対応は医学的には適切であり、間違いではありません。

ただ、薬を処方するという対症療法こそが精神科の限界地点でもあり、それだけでは、個人がこれまでの生活環境で構築された認知や思考の癖を変化させることはできません。

いま振り返ると、物事には自力ではなかなか変えられない社会や他者などの「定数」と、自分の努力次第で変えられる「変数」があると感じます。

自力では変えられない「定数」である社会構造を相手に、いくら個人が努力しても変えるには膨大な労力がかかります。

だからこそ、まずは自分が変えられる「変数」の部分から変化させていくしかない。

その過程で、自分の認知や思考の癖と少しずつ向き合っていく手段として機能するのが、薬の処方ではなく、認知行動療法なのだと思います。

「社会の病理」を定数として捉え、適切にケアするために

--高度経済成長期の日本では、「豊かな暮らし」という分かりやすい目標がありました。しかし今、一定の豊かさを達成した社会で、若者たちは「何のために頑張るのか」という目標を見失いやすくなっている気がします。

伊礼:
たしかに一定の豊かさはあるものの、それが生活に余力を生むほどかと言われるとそうではないと思っています。

貧困や格差は依然として存在しますし、逆に日々の労働によって自分の時間が奪われてしまい、余暇を楽しむ時間や「自分が本当にやりたいこと」を探す時間すら持てない人が多いのではないでしょうか。

そうやって働くことに追われる中で、人生の目的を見失ってしまう人も少なくないと感じます。

また、セルフケアにあてる時間やお金の余裕もなく、気軽に相談できる人間関係や頼れる人がいないまま、メンタルを削られてしまっている現状もあります。

だからこそ、心理カウンセリングなどを公費負担で、低額で受けられる仕組みが必要だと考えています。

さらに、そうした社会のシステム自体を変えようと活動している人たちが、燃え尽きずに継続して動けるよう、社会運動や構造に理解のあるカウンセラーによるケアも必要です。

そうした問題意識を持つ中で、自分が持っている「学歴」や「マジョリティである」という特権性を自覚したとき、生きづらさを抱える人たちをケアすることが、自分の天職なのかもしれないと思うようになりました。

理想の「共生」の形と農業の力

--日本社会の現状についてはどう感じていますか?

伊礼:
政治状況には絶望的な側面もありますが、一方で希望もあります。

以前、ヘルパーの仕事で南アフリカに出張する機会があったのですが、現地では生活保護や国民皆保険がなく、路上で物乞いをする貧しい方々を目の当たりにしました。

日本にはまだ、先人たちが必死になって作ってくれたセーフティネットのバトンが残っています。

このバトンを途絶えさせず、拡張していくための戦いは踏ん張っていきたいです。

--伊礼さんの考える「共生社会」とはどのような社会ですか?

伊礼:
いろんな国籍や属性の人たちが、一緒に同じ農業をして、同じ食卓を囲んで同じ釜の飯を食べる。

最初から最後までプロセスを共にして、同じ味を味わう……想像しただけで幸せになります。

言語が通じなくても、分かち合えるなんて、ワクワクしますし、とっても楽しそうですよね。

だからこそ、私は「コミュニティ」を作りたいと考えています。

--なぜ「農業」なのでしょうか?

伊礼:
土を触っている時が一番心が落ち着いて癒されるからです。

太陽の光を浴びながら土を触っていると、「自分ってちっぽけな存在だな」「この世界に受け入れられているし、いてもいい存在なんだな」と思えるんです。周りの目を気にしなくても生きていいんだって。

それが、私のうつ病を回復させるプロセスで一番効いたことでした。

だから、傷ついた人たちが社会と結びつくための装置として、農業を中心としたコミュニティを作りたいんです。

「沖縄」のルーツと向き合い、世界を知る

--伊礼さんは社会問題に関心を持つ中で、日中関係にも興味を持ち、昨年「アジアの平和と未来をひらく若者訪中団」にも参加していますよね。

伊礼:
最初のきっかけは入管法の改悪反対運動でした。

そこで初めて「公権力って人の命を奪うこともあるんだ」という現実を目の当たりにしたんです。

そこから様々な運動に関わる中で、知人の紹介があり、ツアーに参加しました。

実は私、父親が沖縄の宮古島出身なんです。

私自身は神奈川育ちですが、「伊礼」という名字だけで、社会運動の中では沖縄のアイデンティティを背負わされ、期待されることにずっと葛藤がありました。

--そうだったのですね...。

伊礼:
父親は返還前の宮古島の貧困家庭で育ち、私に対しても暴力的でした。

私はずっと父が嫌いで、沖縄に対しても複雑な思いを抱えていました。

でも、自分が社会や政治に学んでいく中で、「なぜ父はあのような環境で育ち、暴力的にならざるを得なかったのか」を考えるようになったんです。

沖縄の基地問題や不条理な状況の積み重ねが、父の家庭環境を作った。そう気づいた時、沖縄の問題を深く知らなければならないと思いました。

そして沖縄を知るためには、日米関係、さらには中国を含めた大きな力関係(日米中関係)を知る必要がある。

それでツアーに参加したんです。

--痛みを伴うご自身のルーツと真正面から向き合い、そこから世界へと視野を広げていったのですね。

伊礼:
思想や社会学に出会えたおかげで、自分の封印していた過去の蓋を開け、相対化することができました。

それができなかったら、私はずっと父を恨みながら生き続けていたと思います。

傷ついた人が希望を持てる場所を

--これほど深くご自身の経験と思いを語っていただいてありがとうございます。最後に、改めてこれからの目標について聞かせていただけますか?

伊礼:
来年からは通信制の大学で心理学を学び、公認心理師を目指します。

そしてゆくゆくは、農業を通じたコミュニティを作りたいです。

傷ついた人たちが、食や農業を通じていろんな人と関わることで「あ、自分は社会に対してまだ希望を持ってもいい存在なんだな」と思えるような場所を作る。

それが私の中の大きな目標です。

--ご自身の痛みを乗り越え、他者をケアし、社会と結び直していくための本当に温かい目標ですね。これからのご活躍を応援しています。本日は貴重なお話をありがとうございました!

(取材・文/劉聡/在日中国人ライター。日本外国特派員協会(FCCJ)会員)

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