「推し活」の弾幕が架ける新たな橋
日本語作文コンクール最優秀賞·朱恒宇さんが見た「リアルな日本」

2026.04.10
(朱恒宇さん)



中国の若者が日本語で思いをつづる第21回「中国人の日本語作文コンクール」で、大連外国語大学の朱恒宇さんが最優秀賞(日本大使賞)に輝いた。

副賞として招待された日本での1週間(2026年3月2日~8日)は、政財界の重鎮らと膝を交え、教科書にはない「生きた日中関係」に触れる濃密な旅となった。

言葉の違いを「窓」と捉える若き才能が見つめた、交流の現在と未来を追った。




「弾幕」で共感する若者たち──言葉の違いを理解の「窓」に


2025年に開催された同コンクール(主催・日本僑報社、メディアパートナー・朝日新聞社)には、中国各地の201校から2391人が応募した。

今年のテーマは「『推し活』と日中交流」。朱さんは、日本の動画プラットフォームなどで画面上を流れるコメント「弾幕」に着目した。

言語が異なっても、同じアニメやコンテンツに熱狂し、誰かが書き込んだ翻訳の弾幕を通じて感情を共有する日中の若者たち。

朱さんはこの現象を取り上げ、「言葉の違いは、人と人を隔てる壁ではなく、互いを理解するための窓である」とみずみずしい感性で表現し、最高賞を射止めた。




教科書の歴史が現実へ──政財界トップとの対話で得た「一期一会」


「教科書の外に広がる世界を自分の目で見てみたい」

そんな思いを抱いて3月2日に羽田空港に降り立った朱さんは、その後の一週間で、長年にわたり日中関係を牽引してきた「大先輩」たちと次々に面会を果たした。

中でも朱さんに強い衝撃を与えたのは、谷野作太郎元駐中国大使との出会いだ。

90歳の谷野氏が「村山談話」の起草者の一人であると後から知った朱さんは、「歴史が教科書の中から現実へと現れたように感じた」と振り返る。

長い歴史の変遷を見てきた谷野氏が、穏やかな口調で「日中関係を悲観していない」と語った言葉の重みは、深く胸に刻まれた。

また、宮本雄二元駐中国大使との面談では、流暢な中国語での歓待を受けた。
「~性」や「~化」といった言葉が日本から中国へ伝わったという言語交流の歴史に触れ、「どんな国際環境下でも、交流がなければ理解は生まれない」という宮本氏の信念に感銘を受けた。

鳩山由紀夫元首相からは、互いを尊重し対話で距離を縮める「友愛」の理念を学び、国家間の背後には常に人と人とのつながりがあることを実感したという。

さらに、林芳正総務大臣や堀井巌外務副大臣、竹谷とし子参議院議員ら政界要人とも交流。

朝日新聞社の中村史郎会長らとはデジタル時代におけるメディアの役割について語り合い、東芝国際交流財団などを通じて民間による交流支援の厚みも知った。

立場は違えど、それぞれの場所で対話の場を守り続ける人々の姿を目の当たりにした朱さん。

訪日最終日、NHKの番組収録で「一番好きな日本語」を問われた彼は、迷わず「一期一会」と答えた。
「この一週間の出会いから生まれた理解を、これから先もつなげていきたい」。

朱さんの目に映る日中関係は、確かな手触りを持つものへと変化していた。

(写真:日本僑報社提供)

(写真:日本僑報社提供)

(写真:日本僑報社提供)

(写真:日本僑報社提供)

(写真:日本僑報社提供)




「現地で感じ、ありのままを発信したい」──朱恒宇さん一問一答


−−大学で日本語を専攻したきっかけと、コンテストの作文のテーマについて教えてください。

朱恒宇さん(以下、朱)
子どもの頃からアニメを見て日本語に触れており、日本語の響きがとても綺麗だと思ったのが最初のきっかけです。

今回のコンテストでは「推し活で生まれた日中交流」というテーマで作文を書きました。

例えば、bilibili動画やニコニコ動画のような大きなプラットフォームで配信されているアニメにおいて、「弾幕(画面上に流れるコメント)」の翻訳などを通じて、日本人と中国人がお互いを理解し合い、交流するという内容です。

今、中国では「本命」や「推し活」といった日本の言葉がそのまま使われる現象も起きています。
言語が違っても、表現したい感情や「推し」への情熱は同じです。

中国人が日本のサイトに中国語の弾幕を書き込み、日本人が「これはどういう意味だろう」と興味を持つ。
そうした現象から、言葉は隔てる「壁」ではなく、お互いを理解するための「窓」なのだということを伝えたかったのです。

窓の形が違ったとしても、そこから相手の心を見ることができると思っています。



−−今回の来日で、日本の要人たちと面会していかがでしたか?

朱:
これまでは、日中両国のマクロな関係は一般市民からは、とても遠いものだと感じていました。

しかし、次期首相候補になるかもしれないような大物の方々が皆とても親しみやすく、偉ぶることなく真剣に私たちのために時間を割いてくださいました。

おかげで一気に距離が縮まったように感じました。

特に宮本元大使とお会いした際、終始中国語で私に話しかけてくださったことに大変感動しました。

そして「私たち一般市民は、両国が争うのを見たくないのです。この立場は変わりません」と語ってくださったことが胸に響き、私も将来、日中友好のために少しでも貢献したいと強く思うようになりました。



−−日本の街を実際に歩いてみて、何を感じましたか?

朱:
街がとても清潔で、地下鉄に乗る際も人々が秩序立って並んでいることに感心しました。

一方で、日本の満員電車は想像以上でしたね。
中国なら「人が多いから次の電車を待とう」となるところを、日本のラッシュ時はどうにかして無理やり乗り込もうとしますし。

また、居酒屋での日本食や本場の日本のラーメンを食べたりと、リアルな日常も体験できました。
行ってみたかった秋葉原のアニメショップにも行けましたし、こうした現地の空気を直接味わえるのがとても嬉しいです。



−−今後、日中間の共生を含めた多文化共生のために、私たちには何が必要だと思いますか?

朱:
他人の話を見聞きするだけでなく、自ら現地に足を運び、自分の身を置いて体験することが不可欠だと思います。

そして、自分が長年培ってきた価値観や枠組みだけで相手を判断・排斥するのではなく、なぜその文化や風習が形成されたのか、背景を理解しようとする「包容力」が必要です。

私は「文字」には非常に大きな力があると思っています。

今後もし日本に留学できたら、日記や週記をこまめに書き、セルフメディア(SNS)などを通じて、私の目で見たリアルな日本をより多くの人に発信していきたいと考えています。




「困難な時こそ、民間の架け橋を」──主催・「日本僑報社」代表・段躍中氏に聞く

(写真左:段躍中氏 日本僑報社提供)


−−現在の情勢下での訪日実現には、苦労もあったのではないですか?

段躍中氏(以下、段):
正直なところ、日程が順調に実現できるか懸念もありました。

しかし、朱さんが大きな勇気をもって不確定要素に向き合い、困難を乗り越えて日本を訪れてくれたことに感動しています。

彼の姿は、若い世代が持つ異文化交流への情熱と信念そのものです。



−−日本側の受け入れ態勢はいかがでしたか?

段:
林総務大臣をはじめとする政界の方々、外務省、そして各界からこれほど温かい歓迎とご支援をいただけたことに、深い安堵を覚えました。

両国関係に課題がある時期であっても、民間レベルでの交流意欲は依然として強く、多くの方が相互理解のために静かに努力を重ねています。

この揺るぎない支援こそが、私たちがコンクールを継続していく最大の原動力です。



−−今後の展望をお聞かせください。

段:
言語は単なるコミュニケーションツールではなく、互いの文化や価値観を理解するための架け橋です。

今後もコンクールの伝統を守りつつ、日本各界との連携をさらに強化し、より多くの若者が日中交流に直接参加できる機会を創出していきます。

世代を超えて若者たちが努力を続けていく限り、日中友好の基盤は必ずより強固なものになると信じています。




・中国人の日本語作文コンクール
HP:http://duan.jp/jp/index.htm






(取材・文/劉聰/在日中国人ライター。日本外国特派員協会(FCCJ)会員)

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